機能性消化管障害とは? 胃や腸の症状が辛い。。胃カメラや大腸カメラではなにもないと言われるのですが。。。

こんにちは
今日は、機能性消化管障害:Functional Gastrointestinal Disorders (FGIDs)
というものについてお話します。

上部と下部の消化管がありますが
上部は胃、下部は腸の症状とざっくり考えてください。

たとえば上部なら
吐き気や胃痛
下部なら
下痢や便秘、腹痛
こういった症状があると思います。

胃腸症状

 

でも
こんなに症状がつらいのに、、胃カメラ/大腸カメラで何も指摘されない。。
という方。。
本当に日常診療でもたくさんおられます。

『機能的』というのは『器質的』の対義語のように使われ
調べても特別に、コレッという病気がない
という意味があります。

医学部では主に『病気』についてを習うので
胃カメラで潰瘍があった場合、ピロリ菌がいた場合、大腸ポリープが有る場合
などの加療のほうがむしろ得意で
何も器質的に問題ないのに症状がある場合・・・・
実は医師も苦手だったりします。

でも開業してから特に
調べても何も引っかからないけど辛いってことは
『消化管にかかわらず』よくあるなと思います。
大きい病院で
『検査何もないですね。良かったですね〜』って診療に繋がらなかった人のその先にも
『じゃあこの症状とどうやって付き合っていくのよ〜』
という悩みがあると思っております。

そういう方は
お近くの当院のような開業医のクリニックに
相談することになると思います。

なので
私のところにもそういった患者さんが数多く受診されますし
私自身も自ずと
機能的なものの治し方(付き合い方)にとても興味があります。→こちらブログ
その一つ解決策として、漢方薬があると思っております。

『どこにも検査で異常がないから、気の問題ではないですか?心療内科/精神科に行ってください。』
と言われたりもしやすいので
精神科疾患に見える内科疾患を見つけることも大変興味があります。
体に問題なければ、心に問題があるといった単純な問題ではないと思っております。

(もちろん心療内科、精神科の先生方が精神疾患ばかりを診ておられるわけではなく
このように機能性障害に悩む方々を上手に診ておられるということもたくさんあると思います。)

 

さて、こういった機能的な問題の大切さは
最近は徐々に見直されてき始めており
機能的な疾患にフォーカスした書籍はたくさんあります
なかでも私は、國松 淳和先生→こちらの書籍が大好きです。

國松先生は、南多摩病院の先生で
『どの診療科にも当てはまらない不明疾患を診るスペシャリスト』として有名な方で
いろいろな病院で様々な検査をしても、よく分からず、治らなかった疾患の診療に日々あたっておられ
『診断がつかなくても、症状が出ている原因はわかることが多いですから、治療できることが多いです』
とおっしゃっています。→こちら

私も
國松先生の講義や著書で
教えていただいて(國松の内科学など→こちら
『胃カメラ/大腸カメラ』『その他の検査』に何もなくても
症状が辛いって時に
試せることはまだまだ結構あるんだと思っております。

今日はそういったお話です。

 

機能性消化管障害
Functional Gastrointestinal Disorders (FGIDs)とは?

さまざまな消化管の症状があるが
調べても器質的なものは指摘しないときに
総称として

機能性消化管障害
Functional Gastrointestinal Disorders (FGIDs)


と呼びます。

現在の所、目に見えて『この疾患ですね!』という
『器質疾患』が見当たらないという状態です。

症状にはどのようなものがあるでしょうか?

さきほども触れましたが
症状は、上部と下部で分けると考えやすいです。

また『消化器症状メインもの』と『痛みメインもの』でわけると整理がつきやすいと國松先生が教えて下さいました。

まずは、食道〜胃までの問題の上部から見ていきます。

●上部

①消化器症状メインのタイプ

消化器症状の中でもさらに
胃酸の逆流、胃液が上がってくるという方と吐き気や嘔吐、食欲不振を訴える方とがおられますね。

胃酸の逆流がメイン

 

・胃にまつわる不快感がメイン

・嘔気
・嘔吐
・食思不振
・食欲はあるが食べようとしても食べられない。

②胃痛がメインのタイプ

・胃が痛い(チクチクする)

 

次に、小腸〜大腸あたりの症状がメインの下部です。

●下部

 ③消化器症状がメイン(便通の異常がメイン)

・下痢や軟便が多い(→下痢型の過敏性腸症候群と呼ばれる)
・下痢と便秘を繰り返す。一定しない
・便秘が多い
・その他(本人による独特な表現で表される不快感)

 

★★注意★★

医療者が思う『下痢』『便秘』と
患者さんの思っている『下痢』『便秘』
は、実は異なる事がよくあります。
なので、実際の便の回数や性状など、詳しく話し合う必要がありますね。

②下腹部痛メインのタイプ

・お腹が痛い

経過が長いのも特徴
だいたいは、その長い経過のどこかで
胃カメラや血の検査をなされていて何も問題ないのが特徴です。

さて、機能性消化管障害という診断がつくには
ある程度の『期間』が必要です。

昨日今日の痛みや症状で、たまたまその時に胃カメラができて
問題なくて、すぐこの病名がつくというよりは
『よくこの症状で悩まされている』といった病歴が必要です。

経過が長く、血の検査や胃カメラ/大腸カメラ
どこかで一回はなされていても問題ないと言われている。

胃カメラ

 

ような経過が一般的です。

当院に来られて一度も精査したことがなければ
一度は、消化器内科の先生にご紹介して検査をしてもらうことになると思います。

治療の実際

さて治療はどのような物があるでしょうか?
ここに載せるのはほんの一部です。
実際には、それぞれの患者さんと詳しく話をしていく中で
いろいろ試しながら
『付き合っていく』というようなものになります。

●上部

①消化器症状メインのタイプ

・胃酸の逆流がメインの場合

【内服】

・胃酸を抑える薬
・漢方薬(例:半夏厚朴湯 黄連解毒湯)

【生活習慣の改善】
・ダイエット(肥満がある場合)
・深酒の中止
・禁煙励行

・胃にまつわる不快感がメインの場合

 

【内服】

・嘔気抑える漢方(例:六君子湯)
・スルピリドの処方検討(抗潰瘍薬)
・抗うつ薬などの精神的なリラックスを促す処方も検討する

★注意★
抗うつ薬は、何もうつ病の方だけに処方するわけではありません。
その薬効の様々な面に期待して処方することがあります。
『え!私はうつ病じゃないのに』とお薬の説明書を見てもびっくりしないでくださいね。
もちろん処方する場合はしっかりご説明してから処方します。

 

②胃痛がメインのタイプ

【内服】

・胃酸を抑える薬を試す。
・痛み刺激を感じにくくする(閾値をあげる)お薬の使用を検討する。
・漢方(例:安中散 黄連解毒湯 芍薬甘草湯→これらはほんの一例です。)
・スルピリドの処方検討(抗潰瘍薬)

●下部

 ③消化器症状がメイン(便通の異常がメイン)

・下痢や軟便が多い(→下痢型の過敏性腸症候群と呼ばれる事が多いです。)

【内服】

・ラモセトロン(イリボー®)を少量から開始してみる。 頓服よりは、定時内服のほうが飲みやすい
・漢方も効果があります。(例:桂枝加芍薬湯  急な腹痛には芍薬甘草湯も効果があります。)
・下痢が気になって、社会生活がままならないときには抗うつ薬も検討する。

★注意★
この場合も、明らかな『うつ病』でなくてもそういった系統のお薬が功を奏する事もあります。
処方の際は相談しますね。

 

・下痢と便秘を繰り返す。一定しないタイプ(下痢もあれば便秘もあり)

【内服】
・漢方薬(例 大建中湯など)

 

★注意★
お通じの問題は、本当に聞いてみないと分からないところがあります。
『下痢と、便秘だったら少しくらい下痢でも出したい!』
などと個人差があるので本人と相談して処方を決めます。

 

・どちらかというと、便秘が多いタイプ

この場合もいろいろなアプローチがあるので個々に相談が必要です。
一週間くらい排便がなくてもケロッとしている人もいれば
毎日でないと気持ち悪いという人もいるので
詳しく合わせていく必要があります。

過去のブログもご参考ください。→こちら

・便秘の薬についてくわしく見てみましょう。→こちら

・よくある症状シリーズ 〜便秘について〜→こちら

・その他(本人による独特な表現で表される不快感)

このパターンは、実は消化管が問題ではないこともあります。
たとえば、むずむず脚症候群がお腹に起こっている場合とか。→ こちらのブログをご参照ください。

・問診で、患者さんにしつこいくらい詳しく尋ねるワケ。例えばrestless X syndromeの場合。。→こちら

やはり、丁寧に
『困りごと』を確認する必要があり
一回の診察では完結しないことが多いです。

 

②下腹部痛メインのタイプ

『たまに、もしくは時々だけど、しょっちゅうお腹が痛い』みたいな状態です。
本人にとっては、あまり『便秘』も『下痢』もないのですが
おそらく『宿便』があって
それを腸としては、ある時に出したがって思い出したように動き出し
腸が動く痛み(蠕動痛)を起こしているのではないかと言われています。

この痛みがメインの方の診察をして
腹部診察やエコーやレントゲンで
「宿便がありますよ」というと
「えーー毎日排便ありますよ〜」とおっしゃいます。

加齢やら、冷えやら、運動不足で
「相対的に」宿便となっていても
少しづつはでているので
患者さんは、便が出ていると思うことが多いです。

中には、「むしろ便がゆるいくらいです」と言う方もいます。
患者さんの自覚している便通とあまり宿便とは一致しない気がします。
硬い便の口側には、一所懸命腸を動かして便がゆるく
それが漏れ出ているってこともあり得るからです。

 

ここで大切なことは、このタイプは宿便は宿便でも
腸が排便に見合わないくらい動いて痛いという疼痛がメインなので
「このタイプに単純なマグネシウムや下剤などの便秘の治療は
むしろ腹痛を悪くさせるので良くない方に行くかもしれない!」
ということです。

なのでここでも、漢方の出番です。
頑張って動きすぎている
腸管に対して、「そんなに一所懸命動かなくてよいですよ〜」という意味合いの漢方で
お腹の痛みを取りながら
可能なら原因となっている宿便を出してしまいたいというのが治療の根本です。

【内服】
・漢方(桂枝加芍薬湯 桂枝加芍薬大黄湯 大建中湯 桂枝加竜骨牡蠣湯など)

 

おわりに

いかがだったでしょうか?
今日は機能性消化管障害についてお話してみました。

検査しても何もなかった場合の諸症状のその先にも
医療の手が届くといいなと思います。

私は今年で医師20年目くらいになります。
(結構経っててびっくりしました。)

初めの頃は、大きい病院で研修していたこともあり
「病気」というとなにやら「特別なこと」に感じておりましたが
今は、
「体の不調」というのは
人にとってもっと身近なというか「日々付き合っていくこと」も含まれているように感じています。

〇〇病、〇〇症候群といった「病因」が分かるものだけが病気ではなく
(もちろんこの場合は早期に診断をつけて適切な加療に繋げないといけないと思っております。)

「よくわからないけど、なんだかしんどい」
「天気が悪い日は頭が痛い」
「二日酔い」
「熱中症っぽい」
「朝が起きれなくて学校に行けない」

 

などなど。。。

町医者に来られる患者様は
そういった方が圧倒的多数に多く
たとえ病名がつかなくても
日々、体の不調とうまく付き合いながら楽に日常生活を過ごせるように
診療していくのもひとつの「医療」だなと思っております。

これからも引き続き
地域のニーズに合わせて、日々精進、進化していきたいと思います。

あん奈

過去の参考ブログ

・こんなにつらい症状があるのに何も検査に出てこない!そんな時はどう考えればいいのか・・・・→こちら

こんなにつらい症状があるのに何も検査に出てこない!そんな時はどう考えればいいのか・・・・

・便秘の薬についてくわしく見てみましょう。→こちら

便秘の薬についてくわしく見てみましょう。

・よくある症状シリーズ 〜便秘について〜→こちら

よくある症状シリーズ 〜便秘について〜

 

・問診で、患者さんにしつこいくらい詳しく尋ねるワケ。例えばrestless X syndromeの場合。。→こちら

問診で、患者さんにしつこいくらい詳しく尋ねるワケ。例えばrestless X syndromeの場合。。