猫に噛まれたら小さな傷でも要注意!傷が小さくて大したことないようにみえても受診を!!犬・人との違い、抗菌薬が必要になる理由をお話します。

はじめに

「猫に少し噛まれただけなので、大丈夫だと思っていました。」

外来でよく耳にする言葉です。

実は猫に噛まれた傷(猫咬傷)は見た目以上に感染を起こしやすい外傷
として知られています。

ネコ 咬傷

 

傷は小さいのに翌日には手が真っ赤に腫れ上がり
指が動かなくなってしまうこともあります。

今回は、猫・犬・人(ヒト)の咬傷の違いと
なぜ抗菌薬が必要になることがあるのかについて解説します。

猫・犬・人(ヒト)の咬傷は何が違うのでしょう?

さて、今日のメインは猫に噛まれた傷、つまりネコ咬傷です。

猫咬傷は動物咬傷の約5〜10%程度を占めるとされます。
犬咬傷より頻度は少ないものの、感染率が高いことが特徴です。

傷が小さく、一見たいした傷に見えないのが怖いところです。
犬や人に噛まれた場合との違いに注目してみていきましょう。

「人に噛まれることなんてあるの?」
と思われるかもしれません。

実際には、人に噛まれる状況というのは、

・子ども同士のけんか
・介護中
・酔ってけんかになった
・相手を殴った時に、拳が相手の歯に当たった

などで起こります。

特に、拳が相手の歯に当たってできた傷は Fight biteや clenched fist injury と呼ばれます。
一見小さな傷でも、関節や腱まで感染が及ぶことがあり、非常に注意が必要です。

まずは、ざっと表を見てみましょう。
その後でゆっくり説明していきます。

人(ヒト)
傷の特徴 細く深い傷(穿刺創) 裂ける傷・潰れる傷 裂創、拳が歯に当たる傷(clenched fist injury)
感染率 高い!!! ネコより少ない 比較的高い!
代表的な菌 Pasteurella multocida
(パスツレラ マルトシダ)
皮膚の常在菌にも留意
Pasteurella
Capnocytophaga
皮膚の常在菌にも留意
Eikenella corrodens
皮膚の常在菌にも留意
抗菌薬 皮膚を貫通した猫咬傷では
基本的に検討
高リスク例で推奨 高リスク例で推奨
(特に手は積極的)

「噛まれた」という点は同じでも
何にかまれた感染の起こりやすさや治療方針は異なります。

なぜ猫は感染しやすいのでしょう?
理由は、ネコの歯の形にあります。

猫の歯は細く鋭いため皮膚には小さな穴しか残りません。
しかし、その細い歯は鋭く深くまで刺さります。

そのため、皮膚の深いところにある

・皮下組織
・腱(筋肉を骨につなぐ組織)
・関節
・骨膜

近くまで到達することがあります・

傷口はすぐ閉じる一方で
細菌だけが奥に押し込まれるため
体の中で感染が進みやすくなります。

特に手や指では
腱鞘炎(腱を包む膜の感染)
化膿性関節炎
骨髄炎へ進展することもあり、注意が必要です。

つまり、「傷が小さい=軽症」ではありません。
傷が小さく見えても、油断しないでください。

代表的な原因菌

① Pasteurella multocida(パスツレラ)→猫咬傷で最も重要な菌です!

猫や犬の口の中に高率に存在する細菌です。

感染すると

・数時間~24時間以内に
・強い痛み
・赤み
・腫れ

が急速に進行します。

「昨日噛まれただけなのに今日はパンパンに腫れている」という経過は
この菌が原因であることが少なくありません。

② Capnocytophaga canimorsus(カプノサイトファーガ・カニモルサス)

犬や猫の口腔内に存在します。

通常は問題にならないことが多いものの、

・脾臓を摘出している方
・アルコール多飲
・肝硬変
・免疫力が低下している方

では重症敗血症を起こすことがあり、注意が必要です。

③ Eikenella corrodens (アイケネラ・コローデンス)

人の口の中に存在する嫌気性の細菌です。

先ほど述べたように
「人に噛まれた傷」だけでなく
相手を殴った際に相手の歯が手に当たってできた傷
でも感染します。

これも大変怖い菌で
一見小さな傷でも関節や腱まで感染していることがあり
緊急疾患となることがあります。

④皮膚の常在菌

起因菌を考えるうえでは
噛んだ側の口腔内細菌だけでなく、もともと皮膚にいる菌も重要です。

たとえば
黄色ブドウ球菌レンサ球菌なども感染の原因になります。

そのため咬傷では
複数の菌を想定して治療を考える必要があります。

なによりも、まずはよく洗うこと!!
異物がないか確認すること!!!

上記のような菌がいると聞くと、すぐに抗菌薬が必要だと考える方も多いと思います。
もちろん、必要な場面では抗菌薬も大切です。

しかし、まず何より大切なのは
傷をしっかり洗うことです。

水道水で構いません。

できるだけ早く、

・流水でしっかり洗う
・石けんで周囲を洗う
・異物が残っていないか確認する

ことが大切です。

医療機関では
さらに十分な洗浄を行い
異物や壊死組織がないか確認します。

「抗菌薬を飲めば大丈夫」ではなく、洗浄が治療の土台です。

なぜ、ネコに咬まれた傷は小さいのに
基本的に全例に、抗菌薬を勧めるのでしょう?

抗菌薬の使い過ぎは耐性菌(抗菌薬が効きにくい菌)の増加につながるため
本当に必要な場合だけ使用すべきです。

そのうえで
猫咬傷では基本的に抗菌薬を使用します。

実はランダム化比較試験(RCT)だけを見ると
猫咬傷に対する予防的抗菌薬の有効性を強く証明した研究は多くありません。
それでも現在の主要ガイドラインでは
感染率や重症化リスク、解剖学的特徴などを総合的に評価し
皮膚を貫通した猫咬傷に対する予防的抗菌薬を推奨しています。

【現在の主要ガイドライン】

・猫咬傷の感染率が高いこと
・深い穿刺創になりやすいこと
・手指では腱鞘炎や骨髄炎など重症化しやすいこと

などから

皮膚を貫通した猫咬傷では
基本的に予防的抗菌薬を推奨
しています。

つまり、感染リスクと治療による利益・不利益を総合的に判断しているのです。

ネコ咬傷は
オーグメンチン®(アモキシシリン・クラブラン酸)が第一選択

先ほど述べたように
ネコ噛傷では

・Pasteurella multocida(パスツレラ)

が怖いので
それを絶対外さずに
皮膚の常在菌である

・ブドウ球菌
・レンサ球菌
・嫌気性菌

など、複数の関与する菌を念頭に治療する必要があり
これらを幅広くカバーできるアモキシシリン・クラブラン酸製剤が第一選択となります。

抗菌薬の種類や投与量、期間は、傷の深さや部位、年齢、腎機能などを考慮して決定します。

では、犬に噛まれた場合は、抗生剤は必要ですか?

犬に咬まれる

 

実は、犬咬傷は猫ほど感染率は高くありません。

そのため
すべての犬咬傷に抗菌薬が必要というわけではありません。

ただし、

・手や指
・深い傷
・骨、関節、腱の近く
・顔面の傷
・糖尿病
・免疫力が低下している方
・ステロイドや免疫抑制薬を使用している方
・脾臓を摘出している方
・肝硬変がある方

などでは抗菌薬が勧められます。
犬咬傷では、傷の部位や深さ、患者さんの背景を見て判断します。

人に噛まれた場合は抗生剤は?

人の口の中にも、感染を起こす菌が多く存在します。
そのため、人に噛まれた傷も軽く見てはいけません。

手の歯型

 

特に注意が必要なのは、

相手を殴った時に、拳が相手の歯に当たってできた傷です。

この場合
傷は小さくても
拳の関節や腱の近くまで菌が入り込んでいることがあります。

人咬傷でも、アモキシシリン・クラブラン酸製剤が第一選択となることが多く
手の傷では専門医への紹介を積極的に考えます。

猫咬傷では傷は縫わない!?

患者さんから、

「縫った方が早く治りますか?」

と聞かれることがあります。

しかし猫咬傷では
傷を閉じてしまうことで細菌を内部に閉じ込め、感染を悪化させる可能性があります。

そのため
手や指の猫咬傷では
縫合を行わず、十分な洗浄と感染管理を優先することが一般的です。

一方で
顔面など整容面
つまり見た目が重要な部位では、十分な洗浄を行ったうえで縫合を検討することもあります。

場合によっては、形成外科などの専門医の先生と相談しながら治療方針を決めていきます。

「狂犬病が怖いです。」・・・・

動物に噛まれると、狂犬病を心配される方もおられます。

日本では、1957年以降、国内で感染した狂犬病は報告されていません。

そのため
日本国内で犬や猫に噛まれた場合
通常は狂犬病ワクチンを接種する必要はありません。

一方、海外では事情が異なります!!!

アジア、アフリカ、中南米などでは、現在でも狂犬病が流行している地域があります。

海外旅行先で
犬や猫、コウモリなどに噛まれたり、引っかかれたりした場合は
帰国後ではなく、現地ですぐに医療機関を受診し
暴露後ワクチンなどの必要性を判断してもらうことが重要です。

破傷風の予防は必要です!!!

さて、狂犬病よりも
日本で動物に噛まれた時に必要なのは
破傷風の予防です。

「破傷風は錆びた釘を踏んだ時になる病気」と思われがちですが

破傷風菌は
実際には土壌中に広く存在しています。
そのため
動物咬傷も破傷風のリスクがあるため
受診時には破傷風ワクチンの接種歴を確認します。

接種歴や傷の状態によっては、

・破傷風トキソイド(追加接種)→予防接種

・破傷風免疫グロブリン(TIG)

が必要になることがあります。

当こんな場合には大きな病院(外科 形成外科)へご紹介します

以下のような場合には、深部感染を疑い、速やかに大きな病院へご紹介します。

  • 咬まれた指が動かしにくい
  • 咬まれた指を伸ばすと強い痛みがある
  • 腱に沿って強い圧痛がある
  • 咬まれた指全体が腫れている
  • 関節近くの傷
  • 膿が出ている
  • 骨や腱が見えている

これらは化膿性屈筋腱鞘炎などのサインであり
手術が必要になることもあります。
なるべく早く大きな病院、特に外科や形成外科などにご紹介させていただきます。

 

おわりに

いかがだったでしょうか。
猫ちゃん好きの方は、たくさんおられると思います。

かわいい猫ちゃんであっても、噛まれた傷は見た目以上に注意が必要です。

覚えておいていただきたいことは
猫咬傷は、見た目以上に感染リスクの高い外傷である
ということです。

「小さな傷だから様子を見よう」と考えるのではなく、

・まず十分に流水と石けんで洗う
・できるだけ早く医療機関を受診する
・必要に応じて抗菌薬や破傷風予防を受ける

ことが大切です。

当院では
傷の状態だけでなく
受傷状況、持病、感染リスクを総合的に評価し
必要に応じて抗菌薬の処方や専門医へのご紹介を行っています。

猫、犬、人に噛まれた場合には、「小さな傷だから大丈夫」と自己判断せず、お気軽にご相談ください。

あん奈

参考文献

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