疾患と病 かきかえ? なんで先生は、そんなことまでいろいろ聴くの???

みなさま。こんにちは。
寒くなりましたねぇ。
あちらこちらで金木犀の香りがしてます。
私は、すごく好きな香りなのですが
不思議とちょっと切ないような気持ちになります。
なんででしょうね。

さて、今日は久しぶりに家庭医療のお話をしたいと思います。
家庭医療の世界では

・疾患の病(気)の経験両方を探る

事が必要とされます。
疾患?病(やまい)?なにそれ?一緒じゃないの??
私は初めて、指導医の先生にこの話を教えていただいた時
まさにそんな気持ち
『?????』という感じでした。

今では、『疾患』と『病(やまい)』はしっかりわけております。
今日はそんなお話をしたいと思います。

以前に患者中心の医療の話をしました。
実はその図にもでてきています。
左上の部分です。

患者中心の医療

今日はここを詳しくお話してみたいと思います。

 

『疾患(しっかん)』とは?『病(やまい)』とは

家庭医療学では
『疾患(しっかん)disease』『病(やまい)illness』を明確に区別しています。

●疾患とは

『疾患(しっかん)disease』とは
平たく言うと、医学部で医師が学んできたことです。
病理学、生物学的に身体に起こっていること
というか・・・・
いわゆる医師が『鑑別診断』としてラベリングする時に普通に扱っているものです。

55歳の男性 広告会社部長。170cm 80kg 
日曜日の朝に久しぶりジョギングをした。
15分くらい走ると急に胸部に圧迫感を感じた。
冷や汗と動悸が止まらない。携帯で救急要請。
高血圧と高脂血症があり近医通院中だが怠薬も多く
コントロールは良くない。
タバコは20本/日。家族は妻と二人の子どもがいる。

 

さて、これだけの情報が与えられたとします。
医師の頭の中は・・・・・
『結構、動脈硬化が進んでそうな中年男性だな・・・労作時の胸部圧迫感で、5分か。。冷や汗もでているし、よし心筋梗塞の除外が必要だ。酸素!点滴!!モニターつけて!!心電図もとるよ〜!!!!』
となります。
これがいわゆる疾患(しっかん)disease』
を探る医師の普通のアプローチです。

医学部ではむしろ
この訓練をたくさんしてきました。
国家試験の問題もなんならこんな感じです。
もちろん、患者さんも医師にこの診断をつけてほしくて受診をしているわけです。

疾患を探るのに正直な所
『広告会社部長』だとか『妻とか二人の子ども』なんて情報も
別に無くても良いわけです。

救急外来で救命が急がれるときは
別に疾患だけわかれば良いのかもしれません。

●病(やまい)とは

では、『病(やまい)illness』とは?なんでしょうか?

家庭医療学の教科書には
『病(やまい)illness』は、
心や身体に起こる問題についてその人個人の主観的な苦しみ
と載っています。

どういうことでしょうか?

さて、ここに、さっきの疾患を探る情報が全く同じ(つまり疾患は全く同じ)二人がいるとします。
でも、実際は一人として同じ人はいません。
それが、『人』の面白いところであり、教科書や問題集の症例を解くのとは全く違うと言われる所以です。
下の図を見てみてください。

 

疾患・病の両方の体験を探る

 

AさんもBさんも
疾患のラベリングでいうと『心筋梗塞』になります。
でもお二人の『思っていること』は全然違いますね。
『病気の経験』は十人十色です。
患者さんに直接聞かないと分からないことも多いです。

このお二人に同じアプローチをするわけにはいきません。
家庭医の先生は、この違いをとても大切にします。
患者さんを主人公とした『物語』がそこにはあります。

『か・き・か・え』とは

その『病(やまい)illness』
患者さんとの対話の中で分かってきます。
そしてやみくもに聞くのではなく
下記4つの面から尋ねることが推奨されています。

どのように、今の状態を捉えておられるか?(解釈モデル)
当院への希望はどういったことか?(期待 お薬が欲しいだけ?検査の希望がある?話を聞いてもらいたい?)
今の感情は、どういう気持ちか?(感情)
今の病気は、その方の人生にどういった影響があるか?(影響)

そういった事をお聞きすることで
患者さんの事がより深くわかるようになります。

 

疾患と病の両方をさぐる

疾患、鑑別診断のみに重点をおいて患者さんの苦しみを考慮しないのも
心理的社会的なことを重視して、医師本来の鑑別診断がおろそかなのも
家庭医療においては適切ではありません。
もちろん、一刻を争う場合は、『疾患(しっかん)disease』を優先させますが。。。

疾患の理解はEBM(evidence based medicine)エビデンスに基づいた問題解決技法
病の理解は NBM(narrative based medicine)対話に基づいた医療アプローチ
の方法を取り入れています。

疾患 病の両方の経験を探る

実際の診察ではこの図のように

『疾患(しっかん)disease』『病(やまい)illness』

両方を前後しながら
家庭医は探っていきます。

このようにしてその方に一番『合う』アプローチを探っていきます。

おわりに

今日は、家庭医の技法である『患者中心の医療』の中の左上
『疾患』と『病(やまい)』の両方をさぐる
という部分を深掘りしました。

以前、福井大学に勤めていた時
5年生の医学生さんに診察室で横に座ってもらい診察を見てもらっていた時に
最後に『今日はどうだった?』とお聞きすると
『ん〜 山本先生の外来は雑談が多かったなと言う印象です。』と言われて苦笑した事があります。

先に、このレクチャーをすべきだったな
と反省しました。(彼にはすぐこのレクチャーを追加しました(笑))

でも患者さんの中にも
なんでこんなにグイグイ聞いてくるんだろう?
と不思議に思われる方もおられるかもしれません。

その時は、
『疾患』と『病(やまい)』の両方をさぐっている
のだなとご理解いただけたら幸いです。(笑)

疾患の緊急性によっては『疾患』中心になっている場合があります。
すみません。。。。

この患者中心の医療に関しては
これからも
このようにちょこちょこ深掘りしてご説明してまいりますね。

『家庭医ってなにしているんですか?』
患者さんがたまにそういうふうに興味を持ってくださることがあります。
すごく嬉しいです。
折にふれてご説明していけたらと思います。

それでは・・・
今日は寒いので温かくして眠りましょう!
おやすみなさい!

 

あん奈

 

 

【参考過去ブログ】

・総合医と専門医はどっちも大切。患者中心の医療。そして、セッティングによる違いも。→こちら

総合医と専門医はどっちも大切。患者中心の医療。そして、セッティングによる違いも。

・今日のミニレクチャーは、、、問診の取り方でした。そしてスタッフ自慢。。。 →こちら

今日のミニレクチャーは、、、問診の取り方でした。そしてスタッフ自慢。。。