もし、お口から食事が食べられなくなった時の事を考えてみたことはあるでしょうか?

こんばんは。
当院は、基本的に土曜日に、子供さんのコロナワクチンの日を設定しております。
(大人とは分けた日時で、接種しております。)

子供たちの接種日は
一気に院内の平均年齢がググッと下がり
にわかに院内が活気づいております。
予防接種の子たちは、元気な子たちですし賑やかですね。

当院は、お子さんの診察もしておりますが
それでも割合的には、基本的に大人が多いので
いつもとは、ちょっと違う雰囲気になります。
そんな土曜日を楽しんだりもしております。
(大人の一般診察は、土曜日も普通通り開いております。)

さて今日の話題は、

「ご自分や、ご自分の大切な方がお口から食べ物を接種できなくなった時(経口摂取と言います。)のことを考えたことがありますか?」

というお話です。

元気な時は、あまり考えたことないかもしれません。

縁起でもない!と話したくない方もおられると思います。

でも私は、できたら、皆さんに自分ごととして

将来こういう場合はどうしたいか?

普段から、情報を集めて、なんとなくでいいので考えていただきたいと思います。

そしてその考えを、ご家族など、大切な方に話しておいてほしいと思います。

以前、「もしバナゲーム」についてお話ししました。→こちら「もしばなゲームってご存知でしょうか?」

もしバナゲーム

もしもの時のことを

考えておくこと

知識を集めておくこと

大切な人に伝えておくことは

すごく意味があると思います。

私は、医師として

今までたくさんの「食べられなくなった」患者さんとそのご家族にお会いしてきました。

元気なうちから

「もし私が食べられなくなったら、、、こうしてほしい」という話をされていた方と

そのご家族は

そういう状況になっても比較的落ち着いて、選択、行動ができておられることが多いです。

一方で

あまりこのような話題について話し合って来られなかったご家族は

本人がその時決められる状態になかったら

「こんな時、本人ならどうしたいって言いなさるだろう??」

と考えても

なかなか確信が持てず

こんな大事なことを自分が決めるなんて恐れ多いと

混乱し、なかなか選択できない

ということがよくあります。

食べられないのが、短期間ならば・・・・

お口から、食事を摂れないのが短期間の話であれば

「脱水にならないように点滴をしましょう!」

というのが自然な流れだと思います。

末梢点滴

例えば、

●胃腸炎などで嘔吐や下痢をしていて腸管(消化管)を休ませないといけない

なんて時が想像しやすいと思います。

この場合は

・お口から、水分を摂れない(吐いてしまう)

・お口からとっても、それを上回る量の下痢で水分を失ってしまう

ということから

消化管が落ち着くまで

点滴をして水分を血管の中に直接入れてあげるというのは理にかなっております。

でもそれは前提として

そう遠くない未来に治る!

治るまでの間のことだから!

ということがあります。

じゃあ食べられないことがは長期間、もしくは今後ずっとそうだったら?

ただ、もしその状態が長く続く場合はどうでしょうか?

例えば

●高齢になって、たくさん食べられなくなった。

●認知症になって、食事を認識でず食べたがらない。

●食べると誤嚥してしまい、肺炎を繰り返すので経口摂取できない。

●胃や腸の病気、あるいは大きな手術をして、長期間消化管を休ませないといけない。

一口に「お口から食べられない」と言っても

実にさまざまな、色々な理由や背景があります。

年齢のように、回復は見込めない場合もあれば

手術のように、食べられるまでは、長期間にかかるけど、ゆくゆく回復するものもあります。

大前提として、生理的なのは・・・

ここで大前提として

もし消化管(胃や腸)を使っていいなら

生理的(自然に近い)のは

胃や腸を動かしてあげることです。

点滴というのは、水分や栄養を直接血管に送り込むだけなので

消化管は動きません。

消化管は使わないと、退化していきますから

生理的とは言えません。

消化管を使えない理由があるなら・・・点滴という手段を検討します。

でも、消化管を使えない場合もあります。

●胃や腸の病気がある。

●胃や腸の手術をした。

など。

この場合、水分や栄養を入れようと思ったら、点滴しかありません。

そして点滴には大きく分けて二種類の点滴があります。

①末梢点滴

末梢点滴

普通、皆様が想像するような、いわゆる「点滴」がこれにあたります。

一般的な点滴といえば、血管内に針先を入れますが

血管が取りにくい方などは

皮膚の下に針先を入れる皮下点滴というものもあります。

これも末梢点滴です。

これらの末梢点滴の場合は、手技は簡単です。

ベットサイドでも、ご自宅でもどこでもできます。

ただ、この場合は、

入るのはほぼ水分のみ

ほとんど栄養は入らない 

という大きな特徴があります。

 栄養の濃い点滴に、このような細い血管や皮下点滴は耐えられません。

また

栄養が入ってこないということは

血管に水分をとどめておくことは困難になってきます。

(栄養成分のアルブミン(タンパク質のもと)が血管の中に水をとどめておく働きをしていますがそれがどんどん減って行きます。)

それでも、水分を補給していると、ゆくゆくは、入れた水分は血管に留まることはできず体が浮腫んできます。

そうなった時は、点滴は中止せざるを得ない、、、

と言いますか、中止する方が、胸水や腹水がたまらないので楽です。

このつまり末梢点滴だけで、ずっと長生きすることはできません。

 

②中心静脈栄養

中心静脈栄養

一方、中心静脈栄養というのは、心臓に近い、太い血管に点滴を取ります。

この手技は、

心臓に近い血管を触るので、一段難しくなっております。

首の血管や鼠径のところから太い血管にアプローチします。

細菌に感染しないように清潔操作が必要になります。

挿入後も細菌感染を避けるために注意が必要です。

末梢点滴と比較すると、カロリーをたくさん入れることができます。

ただこの場合も消化管(腸管)は使ってないので生理的とは言えないです。

消化管(腸管)を使えるなら・・・胃ろうという選択肢もあります。

先ほども、お話ししましたが

基本的には腸管を使って、動かしていく方が、生理的です。

例えば

●食事をすると、むせてしまい誤嚥し肺炎をしてしまう

●認知症で食べれない

こういう時には

消化管(腸管)はお元気です。

そういう場合には

胃ろうと言って

胃に穴を開けてそこからチューブを外に出しておき

そこから栄養を送り込むという選択肢が広がります。

胃ろう

(消化管)腸管を使うので生理的ですし

栄養もたくさん入れることができます。

ただ、胃ろうの増設は

胃カメラを使った小手術が必要です。

また、胃ろうは馴染むのに少し時間もかかりますし

少しづつ栄養をアップさせる必要がありますから

基本的に入院しての増設になります。

このように、たくさんの選択肢が広がっております。
どこからが延命治療なのか?
それは人それぞれ考え方があるでしょう。
何を選択するか?それは、本人や家族が決めていいのです。

昔は、今のようにこのように、たくさんの選択肢はありませんでした。

「口から取れなくなった」ということは

「寿命である」と考えられていました。

(術後のある一定期間というケースは置いといて)

その考え方からいくと、末梢点滴ですら延命治療と呼べるかもしれません。

でも、どこからを延命治療とするか

それは人によってそれぞれ考え方があると思います。

その方、その方に合わせてご本人やご家族が決めればいいと思います。

栄養の摂り方

「食べられなくなった理由」はさまざまですし

「本人の想い」「家族の想い」はそれぞれ違います。

医学の発展に伴い

今は、このようにたくさんの選択肢が広がりました。

「どんな治療を選択するのか」本人と家族が決めればいいと思います。

もちろん、ご本人の状態によっては医学的に、無理な選択肢もあると思います。

●中心静脈栄養が、手技的にとれない

●胃を以前に全摘していて胃ろうができない

など。。。

医師は、その方で考えられる選択肢を個別に指し示します必要がありますが

それを聞いた上で

選択の権利は、本人と家族にあります。

家族のイメージ

何もしないという選択肢もある・・・・

何もしない

ご本人やご家族によっては

末梢点滴も希望されない。

お口から食事を摂れなくなれば、そこで寿命と考えて何もしてほしくない

というご家族もたくさんおられます。

それも、それで立派な選択肢だと思います。

ただ、その場合は、「一般病院に入院しておく」ということは難しくなります。

病床に余裕があったり、それまでの経緯によって四角四面に必ずそうであるわけではありませんが

基本的に、一般病院というところは、治療を希望する方が入院してこられます。

治療を希望される方が、病床が空くのを待っておられる場合もあります。

そうなると

何もしなくて良い、何もせずに自然に天寿を全うしたい

という場合は、現実的には在宅医療という選択が出てきます。

もちろん、その場合は、「生活」「介護」の必要がありますから

介護サービスを利用しながら

訪問診療を受けながら

在宅にて療養していくこととなります。

お看取りも在宅で行うことになることがほとんです。

他の選択肢としては

療養病院(病院の中の療養病棟や病床)、施設、病状によってはホスピスに入れる場合もあります。

この場合は、ベットが空いており、受け入れが可能であることが必要になります。

タイミングによっては満床で入れないこともあります。

迷ったり、揺れてもいい・・・・
想いが変わってもいい・・・

とは言っても

ご本人やご家族の想いは揺れ動くものです。

経験がある方は少ないでしょうから

今後どうなっていくのか想像がつかない方がほとんどです。

「いきなりもう点滴も何もしないというのは、見殺しにするようで、見ていて辛い!何かしてあげたい!」

「浮腫んだり苦しくなったりするまでは、そんなに栄養がなくても、水分点滴でいいからしてほしい。浮腫んだら考えるから・・・」

この気持ちもよくわかります。

実際、多くのご家族は、何もしない=可哀想と思われます。

「痛いこと、辛いことはかわいそう」

「中心静脈栄養とか胃ろうとか、よくわからない」

「自分の生活だけでも大変なのに、介護の負担はどうなるのだろう」

「とにかく、入院させてもらっとけば、努めは果たしているような気がする。」

このように思われる方も

本当にたくさんおられます。

全ての正直な想いは当然のことですし

分からないからこそ悩むでしょう。

迷ったり、揺れたりは当然です。それに想いは変わったっていいと思います。

その時々で主治医の先生に

どういう状況で

どういう選択肢があり

それぞれ選ぶとどうなっていくのか

しっかりお聞きになって

情報をいっぱい集めてくださいね。

医師の説明を受ける

ただ、ずっと何もしないという方向に進んでいって

急にやっぱり胃ろうを!という方向への転換は

場合によっては、その時にはもう胃ろうを作るだけの体力が残ってない可能性もあります。

そのことは、少し覚えておいて

注意が必要です。

ご本人のことを心から考えて、選ばれた道は全て正解

「こんな大事なことを、私が決めていいのかしら?」

「人の生死に線引きをするようで、心苦しい。先生が決めてくれたらいいのに」

そう悩む家族も多いです。

でも、ご本人のことを、心から考えて、悩んで悩んで選択されたのなら

どの方法を選んでも全部正解だと思います。

医師がが決めるよりも、その方と一緒に歴史を歩んできた家族が

「こういう風に言ってた」「あの時はああした」など本人のことを

よく思い出して「だから、こうだと思う」と導き出すのが正解な気がします。

(あ!ただかかりつけの先生とずっとこういう話をして来られた方なら主治医がよく知っているということもあります。私も今までの患者様の何人かは、主治医として私がいろいろな選択をしたこともあります。)

でも可能なら、冒頭のところに戻りますが

本人ともしそうなったらどうしたい???って話を

元気なうちから話しておいて

「本人の希望通りに」というのが一番正解な気もします。

ご自分なら・・・? たまにぼんやりと考えてみてください。

今日は、経口摂取できなくなったら?

という場合に考えられる選択肢を挙げてみました。

ぜひ、縁起でもない!と言わずに

一度、自分だったら、、、、と考えてみてください。

考えるには材料がいるので、胃ろうって?中心静脈栄養って?と自分なりに調べてみたりしても良いですね。

想いは変わってもいいので

そういった情報を集めて自分なりの考え方をゆっくり考えて見るのはとても大事だと思います。

そしてぜひそれを、ご家族ともよく話してみてください。

もし、その状況になった時には

ご家族が、「本人はああ言ってたしなあ。。」と考える一つのヒントになるはずです。

やまもとよりそいクリニック

そして、

もしよろしければ、そう言ったことを主治医にも普段から診察の時に教えてくださるとありがたいです。

〇〇さんって、こういう人だしなあ!こう言ってたなあ!という記録や記憶が増えていくのは

主治医として大きな喜びです。

一緒に話し合いながら

オーダーメイドの医療を

して参りましょう。

あん奈