お子さん、若い方の胸痛の鑑別診断に。プレコーディアルキャッチ症候群とは
こんにちは
つい先日
若い女性で『胸痛』を主訴に受診された方がおられました。
大きな病気ではないか
心配なさったそうですが
最終的に、『プレコーディアルキャッチ症候群』じゃないかなということで経過観察することになりました。
『プレコーディアル キャッチ????』・・・・
聞き慣れない言葉ですよね。
患者さんも
何それ?という感じだったと思います。
実は小児・若年者の胸痛ではよく知られている概念です。
『プレコーディアルキャッチ症候群』・・・
存在を知っておくと
胸痛の鑑別診断に入れることができますので
今日はその概念を共有したいと思います。
はじめに
『プレコーディアル キャッチ症候群』Precordial catch syndrome (PCS) は
若年者に多い良性の胸痛としてよく知られ
米国国立医学図書館(NCBI)のMedGenでは
心疾患とは無関係な良性胸痛として整理されています。
1955年に Miller と Texidor により初めて報告され
その後 Pickering らが小児17例をまとめ
特徴的な一過性の鋭い胸痛として位置づけられました。
Gumbiner のレビューでは
診断は詳細な問診と身体所見に基づき
追加検査は通常不要であることが強調されています。
プレコーディアル キャッチ症候群とは?
Precordial catch syndrome (PCS)
●定義
小児〜若年成人に起こる、突然出現し短時間で自然消失する鋭い胸痛を特徴とする
器質的疾患を伴わない良性胸痛症候群です。
●言葉の意味を整理します。
Precordial catch syndromeの単語を分解してみましょう。
-
「precordial」=前胸部
-
「catch」=急に引っかかる・刺さる感じ
つまり
「前胸部に一瞬、引っかかるような痛み」
というのがこの名前の意味です。
●典型的な臨床像
・痛みの特徴
-
突然始まる
-
鋭い・ズキッ・刺すような痛み
-
持続は数秒〜数分(多くは30秒以内)
-
安静時・夜間・座位や臥位で出やすい
-
自然に完全消失する
心臓の痛み(狭心症など)は
通常数分以上持続し
運動で誘発されることが多く
数秒で消える鋭い痛みとは性質が異なります。
・付随所見(その他の症状や特徴は?)
-
呼吸困難なし
-
動悸なし
-
失神なし
-
運動で誘発されない
-
身体診察・検査は正常
→心肺疾患を示唆する随伴症状が一切ないのが重要ポイントです。
●機序(なんで、そのようなことが起こるのか?)
じつは、正確な機序は完全に解明されていません。
でも、指示されている仮説としてはいくつかあります。
・胸壁にある神経(肋間神経や胸膜近傍の)一過性刺激説
成長期や猫背等といった姿勢などで
一時的に神経が牽引されたり、圧迫されたりしているのではと言われています。
・ 筋骨格系(肋軟骨・筋膜)の微小スパズム(けいれん)説
安静時起こり、数秒でよくなり
『筋肉痛みたいな』『ズキッと』と表現されることから
肋軟骨や筋膜が、痙攣を起こしているのでは(しゃっくりのような)とも言われています。
・自律神経の関与(副次的)
夜間やリラックス時、痛みに注意が向いた時に発症することが多いので
自律神経の関与も示唆されています。
これらの説はどれか一つというわけではなく
複合的に作用していると思われます。
●診断は? 検査は?
診断基準などは特に無く
このような問診と年齢背景などから診断します。
検査も基本的には不要ですが
心電図や胸部レントゲンを撮って問題ないことを確認する事もあります。
●治療
特別な治療はなく、まずはこの病態が在るということを知って安心してもらう事です。
●予後
多くは思春期〜若年期にみられ
年齢とともに自然軽快することが多いとされています
●こういう時は再診をお願いします。
以下のような症状は『プレコーディアル キャッチ症候群らしくない』と言えるので
必ずもう一度診せていただきたいです。
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痛みが数分以上持続
-
運動で誘発
-
呼吸困難・失神・動悸を伴う
-
日に日に増悪
このような時は必ず、再診してください。
おわりに
『胸が痛い・・・』って怖いですよね。
ネットで『胸痛』『原因』と検索したら
怖い病気もたくさん出てくるし・・・
不安になってしまう方もいると思います。
『胸痛』には
『心臓』や『肺』などの
たしかに、いわゆる重要臓器が原因の病気もありますが
一方で
この『プレコーディアル キャッチ症候群』もそうですが
『胸壁』と言って胸部を形づくる骨格、筋肉、神経が原因の胸痛もたくさんあります。
そして特に若年者の胸痛の大半は非心原性であり
詳細な問診と身体診察が最も重要とされています。
是非、心配な症状がある場合は
お一人で悩まずに
ご相談くださいね。
もちろん、心臓や肺などの疾患で
専門医へ紹介が必要な場合はご紹介させていただきますね。
一緒に考えましょう★
あん奈
参考文献
-
Miller AJ, Texidor TA.
Precordial catch.
JAMA. 1955;159(14):1364. -
Pickering D.
Precordial “catch”.
Br Med J. 1981;56:401–403. -
Gumbiner CH.
Precordial catch syndrome.
South Med J. 2003;96(1):38–41. -
Fogliazza F, Giannattasio A, Del Giudice EM, et al.
Approaches to pediatric chest pain: a narrative review.
J Clin Med. 2024;13(22):6659. -
Putra AM, Wibowo A, Suryantoro SD.
Precordial catch syndrome: unveiling a benign yet noteworthy cause of chest pain in the young.
Cardiovasc Cardiometabol J. 2024;5(2):103–110. -
National Center for Biotechnology Information (NCBI).
Precordial catch syndrome. MedGen UID: 898048.
Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/medgen/898048
参考図書
・胸壁症候群を『自信をもって』診療できる身体診察とエビデンス シーニュ既刊本 上田 剛士先生 著


