よくある症状シリーズ 〜しびれについて〜

さて、よくある症状シリーズ

今日のテーマは、『しびれ』ですが。。。。

実はしびれについてまとめるのはめちゃくちゃ難しかったです。
『しびれ』は、実は診察するのも一般内科医にとっては難しい症状です。

というのもいろいろな理由があります。
思いつく限り挙げてみると

・患者さんによって『しびれている』という表現の中に含まれる病態は微妙に違う
・緊急に対処しないといけない、見逃したら行けない『こわいしびれ』が存在する。
・神経所見を正しく取るのは、やはり専門の先生の方が圧倒的に上手(神経内科医師)
・神経内科領域・脳外科領域・整形外科領域・内科疾患領域どの領域の『しびれ』も存在する。

 

などでしょうか。

このように一般内科医師にとって、『しびれ』という症状はチャレンジングなものです。
(もちろんお得意の一般内科の先生もおられます!すみません。)

『しびれ』を訴える患者さんを診察した時に
適切な疾患を想定し
適切な時期に
適切な科にコンサルトするには
内科医師でも、一工夫がいるのに
ましてや患者さんからとってみたら
『このしびれって怖いの?何科に行くべきなの??』というところだと思います。

なので今回のブログでは
細かいしびれの疾患の説明はさておき
『一般内科はどんなふうにしびれを診ていくのか』
『何科に行けばよいのか?』

というところをメインにしてなるべく簡単にお話したいと思います。

『しびれる』とは?

さて、先程も言ったように
患者さんのおっしゃる『しびれ』は微妙にニュアンスが違います。

①動かしにくい(運動障害)

人によっては筋力が落ちて動かない感じを『しびれている』とおっしゃいます。
脱力感、麻痺とも言いかえられると思います。

②感覚が鈍い(感覚鈍麻)

『つねってもわかりにくい』『膜がかぶっているようだ』ということを『しびれている』と表現することもありますね。

③ビリビリする。(異常感覚)

『正座したときみたい』というような、ジンジンした感覚を『しびれる』ということもあります。

 

代表的にはこの3つです。もちろんこの3つは混ざることもありえます。

この他にも・痛み ・震え もしびれると表現される方もいます。

我々一般内科の医師は、なるべくどのことを患者さんがおっしゃているのか
聞き取ろうとしています。

 

 

しびれの原因はどうやって探る?

さて、このようにいろいろ微妙にちがうニュアンスを指す『しびれ』ですから
実に様々な事が原因として考えられます。
というより多くの疾患が『しびれ』という主訴で来られるという方があっているかもしれません。

医師は
どこに(解剖学的に)
何が起きているの?(病態的に)
という組み合わせ鑑別疾患をで考えていきます。

 

ここで簡単に感覚の伝わり方をお伝えしておきます。

●感覚の伝わり方

感覚というのは
例えば、手のひらなどの感覚を感じた部位から
末梢神経を介して、神経根という束になって、脊髄へ伝えられ、最終的に延髄⇒中脳⇒視床⇒大脳皮質)
伝達されます。

 

 

痛みの伝わり方

つまりは
この経路のどこかが
何らかの形で(圧迫されるとか、炎症があるとか)
障害を受けると
『しびれ』になりえるということです。

ちなみに運動神経というのは、この経路とはまた違う経路です。
また、情報の伝わる向きは、感覚の伝わりとは逆です。
頭から、動かしたい部位に向かってます。

症状の分布のパターンを見てみましょう。

さてこの感覚の伝わる経路の傷み方には様々なパターンがありますが
病気によって、どのパターンで傷害されることが多いかおおかた決まっています。

逆に言うと、そのパターンから病気を
類推していく必要があります。

 

上記のように、感覚が伝わる経路をもとに
大きく障害部位として
『末梢神経』『神経根』『脊髄』『脳』にわけて
診ていきたいと思います。

『神経根』は脊髄に分類してもいいと思いましたが、説明の都合上わけてこの順番にしてみました。
神経根とは何か?は後でお話しますね。

 

しびれのパターン

 

A『末梢神経』に問題ある場合

末梢神経障害に問題がある場合には
次の3つのパターンにさらに分けることができます。

①単神経障害
②多発単神経障害
③多発神経障害

 

①単神経障害

一つの末梢神経だけ悪いというものです。
だいたいが、神経を何かが圧迫して起こります。

 

単神経しびれ

しびれ部位:一肢の特定の場所
障害を受けている神経:一つの末梢神経。神経に名前がついていることもある。例)正中神経橈骨神経など
考えられる疾患:どの神経が傷害されるかで、疾患の名前がついています。例)手根管症候群 撓骨神経麻痺 など

 

 

手の感覚神経

この図のように、それぞれどの神経が支配しているのか地図のようなものが分かっていますので
しびれ部位と照らし合わせて障害部位を特定していきます。

●手根管症候群

例として手根管症候群をみておきましょう。

手根管症候群は、手の末梢神経の一つである、正中神経が、手首のところにある手根管というところで圧迫された病態です。

手根管症候群の病態

日本手外科学会「手外科シリーズ 1」から画像を引用→こちら

*ここで難しいのは、単神経障害にみえて、後述する多発単神経障害の初期の可能性もある。というところです。

 

②多発単神経障害

①があちこちたくさん多発しているもの
多くはその神経を栄養している血管の炎症のせいであちこちの神経が傷害されることで発症します。

 

多発単神経のしびれ

 

・しびれ部位:あちこち、ばらばらに起きる。『脳』など一箇所の障害で説明がつかない
・障害を受けている神経:いろいろな神経
・考えられる疾患:血管炎など

この疾患は難しく、初めは単神経障害の形をとり、この経過から更に進行したら、後述の多発神経障害の様々な形によっていくので見分けがつかないこともあります。難しいですね。

 

 

③多発神経障害

末梢神経が全体におかされるもの
全身の障害の事が多い

 

 

多発神経のしびれ

 

しびれ部位:典型的には手袋や靴下を履いている範囲(手袋靴下型)
・障害を受けている神経:多発末梢神経 一般的には体に遠いところから侵される事が多いです。
・考えられる疾患:多くは 糖尿病やアルコール、ビタミン欠乏など慢性疾患

中には急に発症して診断を急いだほうがいいものもあります。

B『神経根』に問題がある場合
(これは次の脊髄に分類されていることもあります。
)

 

これは、一見単神経障害と間違えがちですが
脊髄からすこし出たところにある神経根という束が障害をうけたら起きてくるパターンです。

神経根のしびれ

 

・しびれの部位:デルマトーム(後述します)に沿ったしびれ
・障害を受けている神経:神経根
・考えられる疾患:頚椎症性神経根症 腰椎ヘルニアなど

 

神経根とは、神経の本幹である脊髄(せきずい)から左右に枝分かれする細い神経のことです。
この神経根は脊髄から別れて椎間孔(ついかんこう)という背骨の両側にある細いトンネルを通って背骨から出て行きます。
ヘルニアなどで、この神経根が圧迫されると、その障害部位の支配する部位がしびれをきたします。
神経根の説明
神経根圧迫の模式図

●デルマトームとは

神経根は、どの部位の(高さ)の脊髄に入っていくか下の地図(デルマトーム)で決まっております。
なのでしびれている部位からその高さの脊髄に入っていくのかがある程度類推できます。
このような地図のようなものを参考にしてどの部位が障害をうけているか調べていきます。

 

デルマトーム

 

日本終末期ケア協会→こちら

【参考】●頚椎症性神経根症と手根管症候群の鑑別 

さて神経根の症状とそれより末梢の神経の障害というのは、一見分布が似ていますね。
どうやって鑑別するでしょうか?
実は、この鑑別はなかなか難しいです。
でもヒントになるいくつかのポイントがあります。

似たような部位にしびれが起きてくる、頚椎症性神経根症と手根管症候群を例に見てみましょう。

●頚椎症性神経根症

・首や肩の疼痛が先行する
・朝に改善して、午後夕方に増悪
・後屈、咳、くしゃみ、いきみで出現・増悪する

●手根管症候群

・起床時にしびれ、いたみが強い
・夜間に症状のため覚醒する(睡眠中の手根管内部の圧が高まるらしい)
・作業で増悪し手をふると改善する
・しびれは指先が主体

 

ただ神経のことは、やはりに人間なので器械のようにぱきっと別れないのが難しいところです。
神経支配からはそんなはずないのに!?という症状も起こることがあります。

例えば手根管症候群でも
・本来は神経支配の関係にない第5指まで含めて手全体に症状が及ぶこともある
・前腕、肘、肩なども痺れ感、重い感じ、違和感を訴えることがある

と言った具合です。

まあそれでこそ人間らしいですね。
でもこうやって診断は複雑になってしまいます。

 

 

C『脊髄』に問題ある場合

脊髄に障害がある場合は、以下のようにある一定の分布パターンを示します。
これは、神経の経路と関係があります。
ある程度障害箇所が身体診察から絞れ、画像所見で確かめていきます。

 

 

 

脊髄のしびれ

 

・しびれの部位:障害レベル以下がしびれる
・障害を受けている神経:脊髄
・考えられる疾患:脊髄炎など

 

『脳 』に問題がある場合

『脳』と一口に言いましても、延髄、中脳、橋、視床、大脳皮質というように部位によって名前がついております。
そのどこが障害されたかで実に複雑な分布を示します。

代表的なものだけピックアップします。

 

 

顔面をふくむ半身のしびれ

 

・しびれの部位:顔面を含む体の半分
・障害を受けている神経:大脳
・考えられる疾患:脳梗塞 多発性脳硬化症

 

交代性のしびれ

顔面と体で左右逆のしびれの場合は、「脳幹」という部位の障害を考えます。

・しびれの部位:顔と体が反対の半身
・障害を受けている神経

『脳幹』という脳のある部分の障害ではこのような特徴的なしびれになります。
『脳幹』とは、中脳、延髄と間脳を合わせ名前です。

・考えられる疾患:脳梗塞など

脳幹の障害では、しびれだけではなく、物が二重に見える、めまい、顔面の運動・感覚の異常、ろれつの回りにくさなどが出現します。

 

さていろいろ分布を見てきました。おさらいをしておきます。

●分布によるまとめのおさらい

このようにしびれの部位から、ある程度、解剖学的にどこが障害されているのか分かります。

しびれの分布

同じようなことですが、こういうふうに分けられますね。
神経根は脊髄に入れました。

しびれの分布まとめ②

 

 

こわい!?『しびれ』とは? 急ぐの?急がないの?

私達、一般内科にとって、『見逃したくない怖いしびれ』は、やはり治療が時間との勝負であるものです。
代表的なものは

・脳血管障害
・ギランバレー症候群(急性発症の免疫の関係する多発神経炎)

という病気がが挙げられます。

この2つは、緊急の対応が必要になるからです。
他にもあるのですが、まずはこの2つの疾患を念頭に以下のように問診していきます。
やはり問診がとても大事です。

 

しびれ+αをさぐる問診が大事!!

●緊急性があるか判断する問診

特に注意してお聞きするのは
Qそのしびれは急に起こったのか?
Q顔もしびれているか_
Q少し前に風邪をひいたり、下痢をしてませんでしたか?

 

急に起こったものであれば、脳血管障害を念頭に置く必要があります。
また、顔もしびれている場合は頭蓋内病変をやはり考える必要があります。

この場合は、急いで、脳神経外科』にご紹介することになります。
お電話頂いた時点で、頭部CT、MRIが撮れる施設に先に行ったほうがよいとお話させてもらうこともあります。
救急車でも良いかもしれません。

救急車

 

また『少し前に風邪をひいていた』というキーワードは
医学的には『先行感染』といいますが
ギランバレー症候群という病気の可能性があります。(必須ではありません。)

ギランバレー症候群は、免疫が関係すると言われる多発神経炎ですが、発症から治療開始までの期間が予後に影響すると言われます。
なので、すみやかにこちらは『神経内科』の医師がいるところへご紹介となります。

●その他お聞きしたいこと

・家族歴
・アルコールが好きか_
・糖尿病の有無
・筋力はおちているか
・のんでいるお薬
・最初は痛かったか?
・進行のスピード 月単位? 非単位?
・一日の中での変化
・姿勢での変化
・皮膚所見はなにかないか
・手足の汗をかかないなど自律神経の症状はあるか

一方、怖くないしびれの特徴

また、一方で、『このしびれは怖くなさそうだな』という特徴もあります。

・左右対称である。
・頭より遠い、足先から傷害される
・感覚障害のみで運動障害はあまりない
・高齢発症
・進行がゆっくり

こういう場合は、糖尿病によるしびれかな?お薬の影響はないかな?アルコール性ではないかな?
と比較的落ち着いて原因をさぐれます。

逆にこの『怖くないしびれ』にそぐわない特徴があれば、検査も含めしかるべき科にご紹介します。

検査はどんな物がある?

さて、検査といえばどのようなものになるでしょうか?

・頭部CT/MRI
脳出血や脳梗塞、脳腫瘍などの疾患がないか画像検査としては頭部CT、頭部MRIになります。
→当院ではできません。ご紹介になります。

・抹消神経伝達検査
末梢神経の障害の程度や病態などが分かります。
→これも当院ではできません。ご紹介になります。

・採血
神経を痛めている原因になりそうなものを採血で測定します。

ビタミンB1 B12 血糖 HbA1c 抗核抗体 赤沈  甲状腺ホルモン
HIV HCV HTLV 電解質異常

当院での診療の実際

長々と書いてまいりましたが
ここまで読んでくださりありがとうございました。

『しびれ』の症状で当院に受診された場合の大まかなながれについて最後にまとめておきます。

・まず問診にて『緊急性の有無』について判断します。
→必要があればすぐしかるべき科にご紹介となります。
疾患によって『脳外科』か『神経内科』にご紹介となります。

・緊急性はないにしても、一度神経内科の先生にご相談したいような疾患の場合
 やはり、『餅は餅屋』です。神経内科の先生の神経診察はやはり技術が違います。
 相談したほうがよさそうなしびれなら神経内科の先生にご紹介します。
 また当院ではできない検査が診断に必要ならやはり『神経内科』にご紹介になります。

・また、これは『整形外科的な疾患だな?』となった場合
 相談の上、整形外科をご紹介となります。
ただ緊急性がなかったり、しびれが軽ければ、ビタミン剤やしびれを緩和するお薬、漢方薬などで様子を見るかもしれません。

・そして問診や、診察で『どうも良性のしびれでいいだろう』となれば
採血を行って改善できるものがないか調べて行きます。
またしびれそのものについては、内服薬で対症療法で経過を診ていきます。

以上が実際、私がクリニックで『しびれ』を診ていく場合の流れになります。

 

おわりに

いかがだったでしょうか?
いやあ、『しびれ』って難しいですねえ。
まとめるのも結構骨が折れました。

私も、日々知識をブラッシュアップさせていきながら
このブログ記事も改定していきますね。

みなさんも、悩まれたらご相談ください。
一緒に解決策を模索していきましょう。

 

 

あん奈