前から(慢性の)腹痛に悩まされていませんか?(原因は腹壁にあるかもしれません!)ACNESって何?[2022/09/05更新]
さてこのブログでは
ぼちぼちと、「よくある疾患シリーズ」「よくある症状シリーズ」続けております。
今日は少し、それには当てはまらないかもしれませんが
「あまりメジャーじゃないけど意外によくある腹痛」というものを少し紹介します。

年単位、月単位で、ずっと続いている
なのに、検査しても特に何もなく「気のせいですよ!」なんて言われるお腹の痛み。。。。
そんな慢性的な腹痛にお悩みの方、おられませんか?
そのお腹の痛み、原因は腹壁、詳しくいうと、腹筋(腹直筋)を貫いている神経が原因かもしれません。
その名も、ACNES(前皮神経絞扼症候群)anterior cutaneous nerve entrapment syndrome :ACNES)です!!
「アクネス」と呼びます。
アクネスと聞くと
ニキビ??と思いたくなりますが、、
ニキビは全く関係ございません!
ACNES(前皮神経絞扼症候群)とは
anterior cutaneous nerve entrapment syndrome :(ACNES)
「お腹が痛い!」という時に
実はお腹の中には原因がなく
お腹を覆っている壁、腹壁に原因がある場合があります。
今日はその腹壁に原因がある、前皮神経絞扼症候群(ACNES)についてお話しします。
前皮神経絞扼症候群(ACNES)は、頻度が結構高いにもかかわらず
今までそんなに医学界でも注目されてきませんでした。
私も医学生の時には、習わなかったように記憶してます。
ところが最近、特に総合診療部の先生達の中で
「知っておかなくてはいけない疾患」として注目を集めております。
ただ、まだまだマイナーな部類の疾患なので
患者さんの方が困り果てて、色々調べて、「ACNESでしょうか?」と病院で聞いても
「なんですか?それは。」と言われてしまうかもしれません。
お腹の中には異常がないため、CTを撮ったり、採血しても何も異常はありません。
もちろん胃カメラをしても全く異常はありません。
なので「何も異常ありません!」とか、「気持ちの問題ですよ。精神科受診されたらどうですか?」
と言われてしまうことも。
命に別条はないのですが
患者さんとしては、生活の質(QOLと言います。)が落ちてしまってつらく
「分かってもらえない、本当にこんなに痛いのに。」と落ち込んでしまう方も多いです。
背骨(胸椎)の肋間神経から分岐した前皮神経は
腹直筋の外縁のあたりで筋肉を貫いて皮膚に到達し、皮膚表面の感覚に関係してます。
下の図は、お腹の輪切りの断面です。(下が背中側です。)
緑のラインが神経でACBが前皮神経です。
R.C. Maatman et al. / Scandinavian Journal of Pain 17 (2017) 211–217
なんらかの原因で
この前皮神経が腹直筋を貫いているところを圧迫すると腹痛が出ます。
(追記)実は最近、このようにACNESの痛みが出る方で腰の方に問題が在る方が少なからずおられることが続いております。ACNESと同じ痛み、同じ身体所見ですが、その場合はもっと根本的な腰の治療をしないといけないため厳密にはACNESといえないと考えております。
この❌印の点を
ピンポイントに押さえると
痛みが出ます。
どんな痛み?
皮膚の表面の感覚の違和感を訴える方が多いです。
文献的には
「服が擦れている感覚がきになる」
「眠る時に、そこに何か当たると違和感があり眠れない」
「服が擦れるのが気になってゆったりした服しか着れない」
というような訴えが多いように記載がありますが。。。。。
私のクリニックにくる方は
実際には
経過が長かったり
複数箇所ある方もいて
「どこが痛いのか、よくわからない。」
「表面?中?うーん」
「味わったことない。でも激痛」
「移動した気もする」
とさまざまな訴えをされることがあります。
でも基本的には、上記の図のラインで押さえると痛がります。
診断は?
診断は身体診察になります。
ポイントは
この左の写真のように
痛い場所がピンポイントです。(痛いところ一箇所一箇所の面積は<2cm2程度)
また、非常に特徴的なのは、
この右の写真のように
疼痛部位を圧迫しながら腹筋に力を入れてもらうと疼痛が悪化します。(カーネット兆候と言います)
これは非常に有用な所見で8−10割で陽性になります。
治療
疼痛箇所が1箇所から数箇所なら
治療は麻酔薬の局所注射を試してみても良いと思います。
麻酔薬を注射すると疼痛が消失することで診断が確定します。
一回目の局所注射で反応するのは86%と言われています。
そのうち24%がその一回で治癒してしまいます。(寛解と言います。)
注射を繰り返して痛みが無くなる方もいますが
あまり改善の場合は手術も考慮されます。(ご紹介になります。)
疼痛箇所が腹直筋に沿って対称的に複数箇所あるなら
疼痛箇所が、複数箇所の場合
もし麻酔の局所注射を行うとすれば、たくさんの場所に打つことになります。
しかし私の経験では、そういう場合は
残念ながらその場合は、あまり効果が高くないようにも感じております。
その局所局所が感じなくなっても、他の部位が痛かったり・・・
最終的には「神経の痛み止め」「漢方薬」の調整がメインとなるケースが多いです。
当院では、その場合、腰からの疼痛の場合も考えて、腰のMRIなどをとるためにご紹介したりします。
また、内服調整など麻酔科・ペインクリニックの先生にご相談することもあります。
今日は腹痛と言っても、原因はお腹の中だけではない!
というお話でした。
最近、私がACNES関連で思っていること。
このブログをご覧になって、「自分もACNESかもしれない。」
という方がたくさん受診やお問い合わせくださっております。
本当に、意外に多くおられることに、私自身も驚いております。
そして当院に受診されるときには、何十年もの間苦しんでおられて藁をもすがる想いで受診されることも多く、かなり遠方からもたくさん受診されます。
ただ、その中には
本当に単純にACNESだけだ!と言い切れる方は少ないのも事実です。
複数箇所に疼痛がまたがり、結局再度画像を撮れる大きな病院にご紹介して
最終的に「腰の疾患を抱えている」という方がすごく多い印象もあります。
痛みの出方としては、上の図を見てもわかるように
腰の方から圧迫されていても似たような痛みが出ます。
その場合は、せっかく注射を期待してこられても、神経の痛み止めや漢方薬を最終的に調整することになります。
そうなると、何度も通院していただいてこまめにお薬の効きを確かめたりするのでやはり近いクリニックの方が良いです。なので、ご相談して結局せっかく来ていただいても、反復して通院が難しい場合は近医ご紹介とさせていただくことが多いです。
遠方からお電話のお問い合わせも多く
「お住いの近くで 良い病院はありませんか?」というお問い合わせも多いです。
残念ながら、全国のACNESに強い病院の情報をすべて把握できているわけではありません。
ご期待に添えず本当にごめんなさいね。
ただ、いつもお話するのは、
お近くの「総合診療部」という形で診療しておられる所に
「ACNESという疾患の可能性を自分では疑っている。」と相談にいかれるのは一つの手だと思います。
最近は、ACNESも総合診療の世界では有名になってきました。
なので、そこで相談し、お住まいの地域によってその分野をどこがよく診ておられるか
情報を持っておられるかもしれません。
私のブログの書き方から
「注射すれば治るかも!」とかなり期待されて来られても
結局、診察の末、注射を選択しない事も増えてきております。
せっかく期待してくださったのに、すぐ痛みをとってあげれなくてごめんなさいね。
実際は、
当院に通院していただいて内服加療が奏功しておられる方
ペインクリニックご紹介する方
腰を含め大きな病院に精査をお願いする方・・・・
それぞれ、いろいろな状況を鑑みて一緒に相談して決めてまいります。
ひきつづき粛々と毎日診察を重ねていき、精進して
少しでも皆様が痛みから解放されたらいいなとセツに願っております。
以上が、私が最近「ACNESかもしれない!」と
思って受診される方を診る中で思っていることです。
また、つどつど追記いたします。
あん奈