偽(にせ)狭心痛??? 狭心症とすごく似た胸痛だけど「頚椎」が原因ということもあります。 Cervical anginaと言われます。
はじめに
こんにちは。
今日は「Cervical angina」という狭心症によく似ているけど心臓が原因ではない胸痛のお話をします。
日本語に直すと
Cervical→頚椎
angina→狭心症
です。
Cervical anginaは、Phillipsによって1927年に初めて提唱された病態です。
狭心症と似た胸痛を呈しますが
心疾患ではなく
なんと頚椎に問題があります。
このため
偽(にせ)狭心症!?と言わたりします。
以前に
「腹痛で受診しても実は、椎間板ヘルニアが原因ということもあります。」
といったお話をしました。→こちら
その時にもお話しましたが
体の痛みは
神経を伝わって脳で「痛い」と感じますが
痛みの神経の走行は
体を縦にながく走行しているので
実は痛い場所ではなく思わぬ場所が病変!?
なんてこともあります。
これが
人体の不思議であり面白いところでもあり
難しいところでもありますね。
少し復習をします。
●頚椎、胸椎、腰椎とは?
下の図のように背骨には
頚椎、胸椎、腰椎があります。
●そもそも、感覚は、どうやって「脳」で、感じるのでしょうか?
感覚というのは
例えば、左の手のひらなどの感覚を感じた部位から
末梢神経(感覚神経)を介して、神経根という束になって脊髄後根(後ろ側)から入って脊髄へ伝えられ
最終的に脳(延髄⇒中脳⇒視床⇒大脳皮質)へ 伝達されます。
そして、脳で「左の手のひらが痛い!」と感じるわけです。
●デルマトームとは(感覚の対応部位)
神経根は、どの部位の(高さ)の脊髄に入っていくか下の地図(デルマトーム)である程度分かっています。
このような地図のようなものを参考にしてどの部位が障害をうけているか調べていきます。
日本終末期ケア協会→こちら
●一方、どうやって体は動くのか
一方、体が動く司令は
痛みなどの走行とは逆向きです。
脳からの刺激を受けて
脊髄から脊髄前根(前側)を通って
末梢神経(運動神経)を経て筋肉へ分布します。
●ミオトームとは?(筋骨格の対応部位)
簡単に言うと、先程のデルマトームの筋肉バージョンで
どの神経がどの筋肉を支配しているかの地図です。
それを参照に
傷害されている部位の同定を試みます。
無料で掲載できる図がなかったのでご興味ある方はお調べくださいね。
その経路のどこに問題があっても
同じ部位の問題が生じるのでムズカシイですね・・・・
上記のように
感覚の経路も、運動の経路も人体の広い範囲を縦に走っています。
そうなると
実際の障害部位と
問題が起きている部位(痛い箇所)
がちがうということが生じてきます。
その一つが
今日の主役の
・胸痛だけで頚椎の問題
だったり
・腹痛でも胸髄の問題
だったりするわけです。
さて今日の主役!
偽狭心症!?「Cervical angina」の話。
さて上記のように
Cervical anginaは、Phillipsによって1927年に初めて提唱された病態です。
狭心症と似た胸痛を呈しますが
心疾患ではなく
なんと頚椎に問題があります。
●どのような症状?
狭心症発作のような胸痛が生じます。
冷や汗や吐き気があるところも
狭心症との区別が難しいです。
少し特徴があるとすれば
狭心症は、運動(労作時)に引き起こされますが
このCervical anginaの場合は
「首の運動」と関係があります。
障害の起きている部位を考えれば分かりやすいですね。
数秒〜30分以上の持続時間
肩や腕にまで痛みが及ぶ胸痛
というのが「Cervical angina」らしい胸痛です。
●考えられている発生機序
まだスッキリと解明されているわけではないですが
①前胸部の感覚に対応する部位の神経根の圧迫が生じている
②運動神経の走行である前根の部位になんらかの圧迫がある
③頸部そのものの関節痛や靭帯の痛みもある。
④(詳細は不明だが)その際に交感神経を介して発汗や嘔気が起こる
などが現在考えられている病態です。
このような機序で
首におきている問題が
胸痛として現れる事があります。
●診断はどうやってつけるのか
やはり
狭心症っぽい症状でしたら
回は心臓精査は
やると思います。
「本物の狭心症」ではないという確証はほしいところです。
そのうえで
心臓が何も無いとなれば
もしかしてcervical angina?というように疑います。
身体診察では
首を捻った状態で押して
胸痛が誘発されるか診る試験があります。(Spurling試験)
確定診断としての頚椎MRIなどがあります。
頚椎症 日本整形外科学会 HPより→こちら
●治療
治療は、頚椎の病気なので
整形外科的なアプローチになります。
具体的には
整形外科への紹介となり
神経根ブロックや手術になります。
おわりに
今日はCervical anginaという病態のお話をしました。
「胸痛」といえば
胸には
心臓やら肺やら、血管やら大事な臓器がたくさんありますので
心筋梗塞?肺塞栓?大動脈解離???と
心配になりますが
意外とこういった整形外科疾患も紛れているというところを今日は
お伝えできたら嬉しいです。
私がなぜ、このような少し「スキマ」ともいえる病態について
興味があるかというと
以前も何回かお話しましたが
「〇〇病です!」と診断がつく病態というのは
検査方法や、治療方法が確立されていますし
専門医がいます。
どちらかというと、しっかり診断して
「大きい病院への搬送」が町医者に求められていることかもしれません。
むしろ医師は「病気の勉強」をして来ているので
そのほうが得意かもしれません。
一方で、致死的ではない病気も世の中にたくさんあります。
自然に治ることも多く
本当は病態があったり、病名がついていても
あまり医学的には重要視されていないこと事もあります。
でも
たとえば「胸痛」一つにおいても
心筋梗塞や大動脈解離、肺塞栓といった救命を要する病態「ではなかった」時に
その先に
「じゃあ、何なん!?」「なんで痛いん?」っていうことを
疑っている範囲でもよいので
ある程度患者さんに説明したり
どのくらいで治っていくのか示したり
次の一手は何科に行けばよいのかお伝えしないと
患者さんの不安は、あまり解消できないと思います。
「〇〇ではなかった(怖い病気はありませんでした。)と言われましても、、、じゃあどうしたらいいの?」
というのが本音だと思います。
なので不安から納得ができるまで
何件も何件も
いろいろな病院やクリニックを受診する方もいます。
実際は
怖い病気が否定された場合
「胸痛」を起こすものの中には
・脊椎疾患
・胸壁(筋骨格系)疾患による胸痛(胸壁症候群)」
といった疾患はたくさんあります。
実は、私達開業医の守備範囲である
プライマリケア領域では
「むしろ多い」のが現状です。
なので私はこれからもそういった
「スキマ」かもしれないが「大切な疾患」をしっかり診ていきたいなと思っております。
そして患者さんにも
しっかり分かる範囲で
見立てを
お伝えできるようにしたいなと思っております。
あん奈
過去の参照ブログ
痛い場所が悪いとは限りません。腹痛の原因が「背骨のせい!?」だなんて!!!→こちら
参考文献
・C7神経根障害が原因と考えられたCervical anginaの1例 整形外科と災害外科 61:(1)86-88 2012→こちら
参考図書
今回のブログ記事に関して
上田 剛士先生の本を最近購入しました。
→胸壁症候群を「自信をもって」診療できる身体診療とエビデンス→こちら
発売日:2025年6月16日
単行本 : 94ページ
価格 : 2,000円 (税別)
出版社 : シーニュ
著者:上田剛士先生
相変わらず、分かりやすく、すぐ現場で使える内容でした。
Cervical anginaのページもありました。