漢方のお話 今日は、陰陽虚実(いんようきょじつ)と言う考え方を中心にお話します。

久しぶりに、漢方のお話をしたいと思います。

当院では、診療の中に漢方処方も取り入れております。

以前もお話しましたが→こちら

漢方薬が適応となる場面はたくさんあります。

①漢方治療が西洋医学的標準医療と比べて優れているケース
②標準医療が優先であるが、漢方治療を併用することで治療効果が上がる場合
③漢方治療の併用により西洋医学的標準治療の副作用が軽減できる場合
④西洋医学的標準医療が使えない状況で漢方が有効である場合

などです。

漢方診療のながれ

実際に、漢方を出すときは以下のような流れで、どのような漢方薬がいいのか考えていきます。
問診や身体診察から
この方は陰証(冷えがある)かしら?陽証(熱っぽい)かしら?
また闘病反応は、虚(乏しい)か、実(激しい)かどちらかしら?
というところを考えることが入り口になります。

漢方診療の流れ・あつまれ 飯塚漢方 カンファレンス 吉永 亮先生 南山堂
より引用  一部変更 →こちら

 

(前後しますが、)気血水の考え方については
以前にシリーズでお話をしました。

【気血水について】

・漢方薬について 〜「気」とは何ですか?〜 気虚??→こちら

漢方薬について 〜「気」とは何ですか?〜 気虚??

・漢方薬について〜「気」とは何ですか?〜 気鬱??→こちら

漢方薬について〜「気」とは何ですか?〜 気鬱??

・漢方薬について〜「気」とは何ですか?〜 今日は、気逆!?→こちら

漢方薬について〜「気」とは何ですか?〜 今日は、気逆!?

・漢方薬について〜今日は「気」「血」「水」の「血(ケツ)」!〜→こちら

漢方薬について〜今日は「気」「血」「水」の「血(ケツ)」!〜

・漢方薬について〜今日は「気」「血」「水」の「水(スイ)」!〜→こちら

漢方薬について〜今日は「気」「血」「水」の「水(スイ)」!〜

 

 

 

今日は、【陰と陽】【虚と実】という考え方について少しお話したいと思います。

陰陽(いんよう)

東洋医学らしい考え方の一つに『陰』『陽』というものがあります。
なんらかの刺激が体に加わったときどう反応しているのか?という形式の事をさします。
多くの病態は、まずは陽証を呈し、そのうち陰証になるとうふうに経時的に変化していくとされています。
なので、同じ患者さんにずっと同じ漢方が効くというわけでもありません。

●陽証の特徴

熱性の疾患(熱がある 膿んでいる 赤い 腫れている)
暑がりで薄着になりたい
冷たい飲み物を飲みたい感じ
・長くお風呂につかれない
・病気の初期/急性疾患に多い
・便の臭いがきつい。少量しか便が出ないのにすぐ便意がある

 

●陰証の特徴

寒性の疾患(手足が冷えている お腹が冷えている)
寒がりで厚着になりたい
温かい飲み物を好む
冷房がきらい
・顔が青白い
・虚弱
・慢性疾患
・冷えると悪化する(明け方など)
・便の臭いがしない。水様性下痢。微熱程度

すべてがどちらかの特徴を指すわけでないかもしれませんが
問診をしたり、身体診察をして
どちらが、今の眼の前の患者さんの状態では『主体』なのかを総合的に判断します。

 

●陰陽の区別をつけるための問診

陰陽の区別をつけるのには、問診が大切です。
以下のような質問をしていきます。

・寒がりですか?暑がりですか?
・体の冷えを自覚しますか?(また部位は、全体?手足?)
・入浴で長湯できますか?
・冷房は好きですか?
・冷たい飲み物と、温かい飲み物ならどっちが飲みたいですか?

 

暑がり 寒がり

 

ちょっとよりみち・・
●冷え 悪寒について

『冷え』があるとすべて陰証ではないというのがつまづくポイントです。

例えばインフルエンザなどの初期では
悪寒があっても、陽証です。

また、『冷えのぼせ』という、下半身は冷えるけど、上半身はのぼせるという
こともあります。これを『上熱下寒』と呼びます。
陽証と判断した人の中にも、上熱下寒を訴える方はいます。

ここらへんが、漢方を学ぶ際のとっかかりとして、おや?と難しいですよね。

 

虚実(きょじつ)

今度は、『虚実』という考え方に触れます。
これも実に、東洋医学らしい考え方です。

何か問題が起こったときに、体がどれくらいの強さの反応を示すかという考え方です。
激しく反応するなら『実証』、反応が弱々しいなら『虚証』と言います。

虚実は、主に脈を触ったり、お腹の診察(腹力の強さ)で判定します。
発汗の有無もポイントです。

ちなみに
汗がない場合じゃ闘病反応が強い『実』汗がある場合は、闘病反応が弱い『虚』
と判断します。

六病位のどれにあたるかも考える。
←これは、複雑なのでまたいつか別にくわしく説明したいと思っています。

今日は、触りだけ説明しておきますと
先程の陽証/陰証か判断したら、可能な限り六病位のどこにあたるかを考えます。

●陽証のステージ

・太陽病
・小陽病
・陽明病

●陰証のステージ

・大陰病
・小陰病
・厥陰病(けっちんびょう)

陽証、陰証はそれぞれ、上記のように更に3つのステージに分けられるとされています。
明確に分けられるものではありません。
またこの順で進行するというものでもありません。
結局どこにあてはまるのか、決めるのは難しい時もあります。

それでも大体、六病位でいうとどこにあたるか考えることで
用いる漢方薬も見えてきます。

この考え方に慣れることが、漢方初学者にはむずかしい一つの山になると思ってます。

正直なところ、私も何度も何度も勉強しても
この考え方は難しく感じました。今でも繰り返しいろいろな本を読みながら日々精進中です。

この『六病位』と『気血水』の関係は、軽度と緯度の関係と言われます。
両方の観点から、患者さんを深く把握することで
より、合った漢方が処方できます。
なのですごく大切な考え方だと思います。

 

おわりに

今日は、漢方薬を選択するときにまず考える2つのポイント
『陰陽』と『虚実』
についてお話しました。

まとめますと、

病態は、寒が主体の『陰証』なのか、熱が主体の『陽証』なのか?
闘病反応が大きい『実証』なのか、闘病反応が乏しい『虚証』なのか?

まずはこの2つについてまずは言い表してみるというところが漢方処方の第一歩になります。
私もカルテになるべく記載するようにしています。

そして今日は詳しく説明しませんでしたが、『六病位』というステージのどこに当たるかを可能な限り考えて見ます。

そして次に『気血水』でいうとどの病態にあてはまるかを考えます。
さらにそこに症状や、キーワードを盛り込み、最終的に処方する漢方薬を決めます。
(ここはまた別の機会にでも)

 

 

実は、医学部でもこのような東洋医学の勉強のウエイトは、その他の膨大な西洋医学の勉強に比べるとかなり小さいです。
医師になってから、漢方学を熱心に指導されているところに入門して学ばれる先生方もいますが
そうでない場合は本で勉強したり、勉強会に出たりしながら
徐々に自分の中で体系的に見え始めてくるというような勉強の仕方になります。
かなり奥深い学問だと考えています。

画像にも、採血結果などでも
『異常がない』(現れない)のに
『つらい』というような病態ってたくさんあります。

そんなときの一つの選択肢として
漢方薬というのは
とても必要なものだと考えています。

家庭医療において
そういう患者さんによくお会いするので
家庭医療と漢方医療の親和性はとても高いと思っております。

これからも
ひきつづき学んでまいりたいと思います。

参考図書

私が大変勉強になった本はたくさんありますが
・あつまれ 飯塚漢方 カンファレンス 吉永 亮先生 南山堂→こちら
・腹証図解 漢方常用処方解説 (通称 赤本)高山 宏世先生 →こちら
・絵で見る和漢診療学 寺澤捷年先生→こちら
・はじめての漢方診療ノート 三潴忠道先生→こちら

をおすすめします。

 

あん奈