漢方のお話 リアルな漢方診療の流れ

はじめに

さて今日も漢方のお話をさせていただきたいと思います。
はじめにことわらせて頂きますが、実は私は漢方の専門ではありません。
私は、内科、特に『家庭医療』『プライマリ・ケア』の専門になります。
(→プライマリ・ケアの説明は文末の過去ブログをご参照いただけたらと思います。)

でも、プライマリ・ケアの領域と漢方には親和性があると最近特に感じています。
なので診察の中で、よく漢方を処方しております。

すべての方に漢方を処方するわけではありません。

例えば
世の中には、採血などの検査結果、画像検査には現れない体調の不調
というのが必ず存在します。

原因は分からないけど、なんとか症状とうまく付き合っていけたら・・・・
そんなときに、漢方薬がなんらかの助けになる可能性がある・・・

そんな想いで少しづつ勉強してまいりました。

なので私が今勉強して得た知識などを
すこしづつ発信できたらと思っています。

専門の諸先生方、間違えがある場合は
優しくお教えいただけると幸いです。

 

さて、漢方処方は、1対1対応ではない!!
『異病同治』と『同病異治』という考え

大前提として、『〇〇という症状があればこの漢方!』とはならないのが
漢方診療の難しいところでもあり、面白いところでもあります。

一つの漢方が全く違う疾患に使われていたり
逆に、同じ疾患に対しても違う漢方薬が使われていて驚かれる方もいると思います。

・異病同治 1つの漢方で異なる疾患の治療ができること。
・同病異治 同じ病気でも違う治療

と言います。

じゃあ、どうやって漢方を決めているの??

じゃあ、どうやって漢方薬を処方しているのでしょうか?(決めているのでしょうか)

漢方薬の出し方は

陰陽の区別
実証/虚証の判断
六病位の方向づけ
気血水の判断
本人の症状

というのを参考にして決めていきます。

*注意*

陰陽虚実 気血水という漢方独特の考え方については
文末の【過去のブログ記事】をご参照ください。

これらを確かめながら
あたかも地図の経度緯度を確かめるようにしながら、処方する漢方を決めていきます。

 

漢方診療のながれ

あつまれ 飯塚漢方 カンファレンス 吉永 亮先生 南山堂→こちら
を参照

 

えらく 簡単に言いましたが。。。。

えらく簡単に言いましたが、、
この

陰陽の区別
実証/虚証の判断
六病位の方向づけ
気血水の判断

こそが漢方診療のメインであり、醍醐味であり、難しいところであります。

陰陽・虚実
気血水については
聞き慣れない言葉だと思います。
今までも記載してますので過去の記事をご参照くださいませ。→文末の【過去のブログ記事】を参照

次に、リアルな漢方問診の内容についてお話します。

さて今日のメインは、リアルな漢方診療の実際です。
まず実際にお聞きする問診からお見せしますね。
当院では、すべて口頭でお伺いせずに問診票も併用してます。

陰陽・虚実の区別
六病位のどれにあたるのか
はたまた気血水のどの問題がおきているのか?

を、探る上でやはり問診は欠かせません。
具体的にどんな事をお聞きするか具体的な問診内容を列挙してみます。

便宜的に以下のように分けてみましたがぱきっと分かれるものではありません。

●陽証/陰証 六病位の参考になる問診

・暑がりな方ですか?寒がりでしょうか?
・冷えの部位は?
・ひえのぼせ、ホットフラッシュはありますか?
・お風呂に長湯できますか?
・冷房は好きですか?
・暖房は好きですか?
・温かい飲み物と冷たい飲み物はどちらが好きですか?
・横になりたいほどの倦怠感は?(少陰病の特徴)
・便の匂いは強いですか?(匂いがきついと炎症(熱)、程度が弱いときは、消化管の冷え)
・症状は冷やすと悪い/温めるとまし(ひえ)
・悪寒や発熱はありますか?(太陽病の特徴)
・腹満 便秘(陽明病の特徴)はありますか?
・便をしてもすぐにしたくなる感じはありますか?(陽証の下痢)
・排便するときに肛門に焼けるような感じはありますか?(陽証の下痢)

●虚実の参考になる問診

虚/実は、問診よりは、脈やお腹の診察の方を参考にしております。

・暑がりの寒がりでしょうか?

●気血水の参考になる問診

・食欲はあるか(気虚)
・食べたあとに眠くなりませんか?(気虚)
・朝が調子悪い(気鬱 気虚)
・膨満感、腹満感はありますか(気鬱)
・イライラしませんか?(気鬱)
・月経は順調ですか?(瘀血)
・下痢しやすい?(水毒)
・頭痛は天候で悪化しますか?(水毒)
・唾液は多くないですか?(水毒)
・脚がむくんだり、靴下の痕は付きますか?(水毒)

 

こんな事をお伺いしながら
この方は、『陽』かな『陰』かな?
気血水でいうと、どこに問題があるかな?
と確かめていきます。

いわゆる西洋医学の医療面接(問診)とは異なる問診ですね。

脈とお腹もチェックします。

虚実の区別をつけるヒントとして
生体の闘病反応を診るために
脈とお腹の診察もとても意味があります。

脈が弱いか反発力があるか?
お腹を押して反発力があるかないか?

そんな事を確かめていきます。

脈は変化に敏感です。
一方、お腹の力はすぐ変化せず今までの病気や生活習慣を反映してます。

漢方のお腹の診方(腹診といいます。)のアレコレ

普段の内科の診察と
漢方処方のときのお腹の診察は実は診ているところが違います。

内科の診察のときは、お腹の緊張を取るために、患者さんに膝を曲げてもらい診察します。
漢方の腹診は
『仰向けで膝を伸ばした楽な姿勢』をとってもらいます。

かなりマニアックに説明しているので
楽に眺めてもらってこんなところを診るのね!
くらいにとどめてもらって大丈夫です。

また、漢方の名前が出てきますが、そちらも『ふーん』くらいで大丈夫です。

では、さっそくどんな事を診ているのか見てみましょう。

お腹の診察

●腹力

まずは腹壁の緊張をみます。
押しても凹まない強い反発があれば→
ふにゃふにゃとしたお腹は→

と判定します。

●腹直筋の緊張をチェック

お腹を縦に真ん中に走る腹直筋を触ってみます。

緊張している場合→『芍薬』を含む漢方が合います。
薄い薄い腹筋は、『小建中湯』の適応です。
お腹をくすぐったがる子供さんも『小建中湯』が合います。

 

●みぞおちの抵抗はあるか診ます(心下痞硬 しんかひこう) 

みぞおちを押してみて
痛みや抵抗があれば

六君子湯 人参湯 半夏厚朴湯 半夏瀉心湯
を考えます。

 

●両側の肋骨の下に指を入れて抵抗はあるか診ます(胸脇苦満 きょうきょうくまん)

両方の肋骨の下に指を入れて
痛みや抵抗があれば

柴胡剤
を考えます。

 

●大動脈の拍動を感じるか?診てみます。(心下悸 臍上悸 しんかき せいじょうき)

体表から拍動を触れる場合は
柴胡加竜骨牡蛎湯など 竜骨や牡蛎を含む漢方を考えます。

もちろん、西洋学的に
大動脈瘤は否定しておかないといけません。

 

●臍周囲に圧痛があるか診ます。(臍傍圧痛 せいぼうあっつう)

お臍の周囲、特に左右の指二本分斜め下の圧痛がある場合
瘀血があると考えます。

 

●上腹部と下腹部の抵抗を比べてみます。(小腹不仁 しょうふくふじん)

加齢を示唆する『腎虚』では
下腹部の力が弱いです。

八味地黄丸 牛車腎気丸の適応を考えます。

●心窩部を指で叩くとチャポチャポ音がするか診ます。(振水音)

心窩部を指で叩いて
チャポチャポ音がするようなら→五苓散 六君子湯などの適応を考えます

*注意*

繰り返しますが、一般的な腹部診察とは全く異なります。
当院は、基本的には内科ですので、
漢方を決める診察ではないときは、一般的な腹部診察を行っております。

舌も参考になります。

これまた漢方独特の診察の一つに『舌』を診る『舌診』があります。

舌からわかることは結構あります。

健康な『舌』というのは、子供の舌を見てもらうと分かりやすいですが
きれいなピンク色で歯型や、苔がついていません。

このような項目をポイントにして診ていきます。

●色

色が薄い→気虚
暗赤色→瘀血

●腫大/歯痕

むくんで、縁がガタガタと歯の痕がある場合→水毒

●舌の裏側の血管がよく見える

舌を上に上げて血管を見たときに(舌下静脈)
幅が太く、怒張していたら→瘀血

●舌苔

・白い苔が増えている→少陽病の特徴
・苔が黄色い→陽明病の特徴
・ほとんど苔がなくツルツル→『鏡面舌』といい気血両虚
・苔がまだら→『地図状舌』といい気虚

ぜひ皆様もご自分の舌を鏡で診てみてくださいね!

うちわで煽いでわかること

診察の途中でうちわで扇いで風をあててゾクゾクするかチェックすることも。。。。
びっくりしないでくださいね。(笑)
ちゃんと声掛けしますね。

軽度の悪寒を確認してます。

さていよいよ・・・・
陽証か陰証か / 虚証か実証か
なるべく判断をつけます。

さてこのように漢方問診、脈、お腹の診察を経ていよいよ可能な限り

陰/陽
実証/虚証
六病位
気血水

区別をつけようとします。
この判断に沿って、本人の症状などのキーワードも参照に内服薬が決まっていきます。

ただ、正直なところ毎回クリアカットに判断はいかないのが実際です。
その場合は、実際ある処方を試してみて、その反応を診ながら処方を変更していきます。

おわりに・・・・

さて今日は当院のリアルな漢方診療の実際をお見せしました。

私は、繰り返しますが漢方専門医ではありません。
もっともっと、専門的に漢方診察をされているところは他にもたくさんあります。
基本的には内科、家庭医療学の専門ですが、必要なときはこんなことも確認しながら
漢方を処方することがあるんだな・・・
と思っていただけたらと思います。

 

もし、他の手立てが何もいまなくて
でもなんとか症状を緩和させたいと言うときに
漢方はどうだろうか?
という手はあるに越したことはないと思っています。
もちろん患者さんも希望がある場合に限ります!!!

それでは、今日はこのへんで。

あん奈

 

 

参考図書

私が大変勉強になった本はたくさんありますが
・あつまれ 飯塚漢方 カンファレンス 吉永 亮先生 南山堂→こちら
・腹証図解 漢方常用処方解説 (通称 赤本)高山 宏世先生 →こちら
・絵で見る和漢診療学 寺澤捷年先生→こちら
・はじめての漢方診療ノート 三潴忠道先生→こちら

をおすすめします。

特に、『あつまれ 飯塚漢方カンファレンス』は、総合診療と漢方の両方の視点から、私とほぼ同世代の今まさに精力的にプライマリケア学会を牽引されている、吉永 亮先生の本で本当に勉強になります。直接メールでご質問させていただいたり、症例について参考文献を頂いたこともあります。
今回のブログもほぼほぼそちらを勉強して、私なりにまとめ直したものです。
本当にお世話になっております。

【過去の記事】もご参照ください。

●プライマリ・ケアとは?

について詳しく知りたい方は過去の記事をご参照ください。

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方①今日は一つ目のAを少しだけ→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方②さて今日は一つ目のAの続きをば。→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方③ まだ一つ目のAについて。→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方④ 遂に一つ目のA終了です。→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方⑤ C(包括性)について→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方⑥ 2つ目のC(協調性)について→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方⑦ 3つ目のC(継続性)について→こちら

・プライマリ・ケアのACCCAという考え方⑧ 遂に最後のA(責任性)について→こちら

【漢方ブログ】まとめ

●陰陽虚実とは?

・今日は、陰陽虚実(いんようきょじつ)と言う考え方を中心にお話します。→こちら

漢方のお話 今日は、陰陽虚実(いんようきょじつ)と言う考え方を中心にお話します。

 

● 気血水とは?

 

【気血水について】

・漢方薬について 〜「気」とは何ですか?〜 気虚??→こちら

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・漢方薬について〜「気」とは何ですか?〜 気鬱??→こちら

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・漢方薬について〜今日は「気」「血」「水」の「血(ケツ)」!〜→こちら

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・漢方薬について〜今日は「気」「血」「水」の「水(スイ)」!〜→こちら

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●六病位という考え方について

・漢方のお話 六病位という考え方について 正直・・・私にとっては難しい考え方でありますが、、、→こちら

漢方のお話 六病位という考え方について 正直・・・私にとっては難しい考え方でありますが、、

あん奈