漢方のお話 六病位という考え方について 正直・・・私にとっては難しい考え方でありますが、、

はじめに

さて、今日も漢方のお話を続けたいと思います。
ご興味ある方はひきつづきお付き合いよろしくお願いします。

漢方の話をするときに避けて通れない考え方として
『六病位』(ろくびょうい)というものがあります。
『六つの病気のステージ』とでもいいましょうか?

正直な話・・・・・

この六病位の理解にはかなり苦しみました。
いや、、、今でもかなり難しいと感じてしまうところです。
自分が理解するのも難しく、ましてや皆様に説明するのはまったくもって難しく
書いては消し、書いては消し・・・・・

ようやく形になったものの現在進行系で勉強中であることをご了承ください。

かなり漢方の独特な考え方で
はっきり言って
西洋医学の考え方とそもそも全く違うと考えています。

漢方のご専門の先生方
もし間違いがあれば優しくご指摘いただけると幸いです。

表裏(ひょうり)という漢方独特の考え方

漢方の世界では
体の表面を『表』
体の中を『裏』
と呼ぶのだそうです。

そして
病気は表から始まってだんだん裏に向かって進行する事が多いというのが東洋医学独特の考え方です。

面白いですね。
非常に東洋医学、漢方学の考え方です。

ここだけの話・・・・
漢方初学者の私にとって
この考え方で
しっかり合致するもの(風邪とか)もあれば
いったいどうやって説明すればいいのかワカラナイ病態も
あるような気がしてます。(大家の先生方の意見は違うと思いますが)

なので今日は比較的分かりやすい『風邪』などを例にとりながら
何となくかもしれませんが
大まかな概要をご説明できればと思っております。

 

六病位の種類

六病位は、『六』とついているように六つのステージがあるとされています。
陽証と陰証それぞれ三ステージずつです。

【陽】

太陽病
少陽病
陽明病

【陰】

太陰病
少陰病
厥陰病(けっちんびょう)

それほど、パキッと分かれているわけではありません。

すべての病気がこの順に流れていくというわけではありません。
またすべての『ステージを経ていく』わけでもありません。

同じ病気、例えば『風邪』を想像して見ましょう。
ご自身も、風邪をひいた時に、だんだん症状が変わっていく、もしくは同じ風邪でも今回は症状が少しちがう
というのはご経験あるかもしれません。

高い熱がでる時期があり、その時期は過ぎて後は喉が痛い時期、そして最後に咳が残っている時期。。。。
みたいな感じです。
場合によっては、今回の風邪は、経過中に熱は出なくて、最初から水鼻がでて、喉がイガイガしてダルいだけ・・・・
みたいな風邪もあるかもしれません。

 

西洋医学では、どのような症状であっても
ウイルスが体に入って荒らしている『ウイルス感染症』として捉え
上気道症状、いわゆる、鼻水、咳、喉の痛みなどがあれば
『風邪』=『急性上気道炎』として
『ウイルスによるものなので、自分の免疫力がウイルスを追い出すまで、症状をとるようなお薬で対症療法を行いますね!』
みたいなことになります。
処方薬は、鼻水にはコレ、咳にはコレ、喀痰にはコレというように処方されます。
→これが一般的な、ウイルス感染症の診察です。

 

しかし漢方の世界では
『風邪の症状』を丁寧に分解して考えるというか
風邪は風邪でも一括りにせず
どのステージ(病位)の風邪なのかにこだわって
それによって治療目標がちがうので
お薬も、それぞれで違う

こういった違いが出てきます。

 

 

風邪=なんとなく葛根湯ではない!!!
『風邪』で考える六病位・・・・

六病位を理解しようとしたときに
私としては、『風邪』考えると一番
わかりやすかったです。

なんとなく、風邪には葛根湯!!というイメージが無いでしょうか?
しかし葛根湯が効く風邪はその一部です。

●太陽病

発熱 

 

風邪のひき始めのまもないだいたい発症から1−2日間の時期
悪寒があり今から熱が上がってくる時期です。

この時期は、漢方学の世界では、闘病反応は体表面(表)にあるとされています。

たしかに風邪のひき始めに、体の表面がざわざわ、ゾワゾワした感じとおっしゃる方もいます。
を触ると、体の浅いところ、表面で触れやすいと考えられます。

ちょっと寄り道・・・
★★太陽病で虚実の判断には発汗が大事な指標となります。★★

悪寒があって発汗してたら虚証 
汗がないのは闘病反応が強い実証と判定します。

 

この太陽病の時期は
・汗をかいていない場合『汗をかかせて治す』漢方を選択します。→葛根湯、麻黄湯など
・熱感があり、発汗傾向があれば→桂枝二越婢一湯(桂枝湯+越婢加朮湯)

風邪のひき始めには『葛根湯』!!
となんとなく丸暗記してましたが、風邪の中でも
こうした、初期の汗をかいてない場合をねらって出すというのが『通』な処方ですね。

 

 

●小陽病(ピークをこえた風邪)

喉の痛み

 

さて『風邪』も2−3日経過してくると悪寒、発熱がなくなってきます。

漢方の考え方では、この頃には、体の裏、闘病反応が体の内部まで影響し始めている。と考えます。
そのために、ノドが乾く口が苦いムカムカして食欲がない、など症状が出始めると考えられています。

少陽病が起こる場所を表と裏の中間らへんということで『半表半裏(はんぴょうはんり)』とよんだりします。

体の内部を見れるおなかの所見が重要になります。
に苔が生えたり左右の肋骨の下あたりを診察すると苦痛を感じたりします。
は触れにくくなると考えられています。

 

この時期は『炎症を鎮める』漢方を選択とされます。→小柴胡湯(しょうさいことう)

ちょっと寄り道・・・
★★ 小柴胡湯のバラエティ 〜柴胡剤たち〜 ★★

少陽病期の代表的な漢方が小柴胡湯です。
『柴胡』というのは抗炎症作用』を持つ生薬です。

小柴胡湯には様々なバラエティがあります。
小柴胡湯の仲間を『柴胡剤(さいこざい)』とよびます。

・小柴胡湯
・小柴胡湯+桔梗石膏→小柴胡湯加桔梗石膏(鎮痛作用+抗炎症作用)
・小柴胡湯+半夏厚朴湯→柴朴湯
(喉の違和感)
・小柴胡湯+五苓散→柴苓湯(ウイルス性腸炎などで下痢が続いているときに)
・小柴胡湯+小陥胸湯→柴陥湯(咳が長引き胸が痛い時)
・小柴胡湯+桂枝湯
柴胡桂枝湯
(太陽病によく使う桂枝湯と混ぜることで幅広う時期の風邪に効く)

もうひとつ、柴胡剤は、『自律神経調整薬』としての側面もあります。
イライラ不眠などのメンタルの不調にも活用できます。

柴胡加竜骨牡蛎湯 加味逍遙散 抑肝散 も柴胡剤の仲間です。

この時期の風邪は、もう葛根湯ではなく、それぞれの症状に合わせて柴胡剤を選択するとよいでしょう。

 

●少陰病

★『ノドチクの風邪』!!とは?

 

ひえの風邪

 

さてこんな風邪もあります。
『冷え』が目立つ場合です。
この場合、少陰病と考えるとうまくいくようです。

一般的には、風邪のひき始めには悪寒がして、発熱や発汗があり
今度は、だんだん熱はでなくなって咳とか、喉のいがらっぽさだけ残って・・・
だいたいはここまでに風邪薬や休養で直ることが多いのですが
こじらせてしまうと今度は体が冷えるし、元気がなくなってきた・・・・みたいな経過を辿ります。
六病位の考え方でいうと、陽証からついに陰証に移り変わっていったと考えられます。

またそのような移り変わりを経ずいきなり、このステージにくることもあります。
高齢者とか基礎疾患があったり、冷え性や、疲労が蓄積しているときなんかがそうで
最初からそんなに高熱がでずに、水バナ喉のチクチク感倦怠感がきて、さむーく感じる風邪のです。
なんとなく軽いのどのチクチクが典型で、『ノドチクの風邪』なんて言います。
こういうことを、最初から少陰病(陰証)に入るという意味で『直中の少陰』と言ったりします。

→この場合は『体の炎症を治めながら温める』作用のある漢方麻黄附子細辛湯を選択してください。

 

このように風邪を念頭に見てみると
『太陽病』『小陽病』『少陰病』は
なんとなくそういうことある!!!と分かるような気がしませんか?
風邪なら葛根湯!!!から一歩進んでその時々に合った漢方を出せる
という考え方は、なるほど六病位にわける意味があるような気がします。

 

では、その他の六病位とは??どう考えればいい??

さて、先程の風邪の例ではでてこなかったステージも見てみましょう。

●陽明病

 

暑い中で労働

まずは陽明病です。
陽証の3ステージは、太陽病少陽病に加えて、この陽明病』です。

表裏の考え方で行くと
陽証はだんだん表面から体の中(裏)のほうに病状が進むと考えられており

太陽病で表面にあった病状は、
少陽病では喉や上腹部に、(半表半裏)
そしてこの陽明病の時期には、『裏』と考えられる『消化管症状』が出てくるとされています。

具体的には
腹満便秘、体のほてりなどの症状が特徴です。

陽明病はすべて『実』と考えられ生体反応としては強く、激しい『熱』が主体の病態です。

なのでこの陽明病の治療は、
消化管にこもった熱や便を肛門から排泄する漢方(瀉下(しゃげ)と言います。)を選択します。→大承気湯 白虎加人参湯

たとえば、屋外での肉体労働者などで、熱がこもり体が火照っている。
熱中症が怖くて水をがぶのみしてる。。。。
みたいな時に体から熱を追い出すイメージでお試しするとよいかもしれません。

●太陰病

お腹痛い子

 

さて、繰り返しになりますが
陽証はが主体で、陰証はが主体の病態でした。
体表面を『表』、体の内部を『裏』とよび
陽証では、闘病反応が表から裏に進んでいくステージでしたが
陰証のステージではすべてが『裏』が中心になります。

太陰病は、陰証の最初のステージですので、陽証との区別が難しいことがあります。

陰陽の判断がつきにくく、寒と熱が混じっている状態の場合、少陽病太陰病と考えていいとされています。

陰証が進むに連れて、冷えが全身に進んでいくとされますが、
まだ太陰病期では冷えは、消化管にとどまっています。
なので消化管の冷えを反映して、お腹が張ったり、下痢や人によっては便秘、腹痛などの症状が目立つ時期です。

この太陰病の漢方薬は、『芍薬』を含む漢方薬が多くあります。
芍薬には、腸の動きを良くしたり、緊張をとってくれる作用があります。→桂枝加芍薬湯 

お腹の動きを整えて排便をコントロールさせるといったイメージです。
現代では、『過敏性腸症候群』と診断されている方、『遠足などのイベントの前にはお腹が痛くなるんだよね、、、、』みたいなお子さんに合うイメージです。

★★ 桂枝加芍薬湯のバラエティ  ★★

桂枝芍薬湯にもバラエティがあります。

・桂枝加芍薬湯
・桂枝加芍薬湯+膠飴→小建中湯(虚弱体質 子供の腹痛)
・桂枝加芍薬湯+当帰→当帰建中湯(下腹部の張り 月経痛)
・桂枝加芍薬湯+黄耆→黄耆建中湯(疲労困憊 虚弱)黄耆には、『気』を補う作用あり
・桂枝加芍薬等+大黄→枝加芍薬湯(腹痛 便秘)

 

 

●少陰病

さてさっきも風邪のところでもでてきた少陰病です。

少陰病は、陰証の真っ只中です。
冷えは全身におよんで、全身が衰えて元気がない状態です。
疲れて横になりたいような倦怠感が特徴です。

こんな少陰病の治療は、『附子(ぶし)』など体を温める漢方になります。→麻黄附子細辛湯、真武湯
上記の『ノドチクの風邪』もご参照ください。

●厥陰病(けっちんびょう)

陰証の最終ステージ。
まず読み方がめちゃくちゃ難しいですよね。

“けっちん”とお呼びするのだそうです。

陰証の『寒』のステージの最終段階です。
冷えが体に染み込んだじょうたいというか『極度の虚寒』状態
強い冷え、体力が極端になくなった状態です。

胃腸の働きが弱く、食欲がでません。
食べたものがそのまま下痢で出るという方もいます。

このような厥陰病の治療は、体を温める附子(ぶし)と乾姜(しょうが)と甘草という生薬から構成される『四逆湯』を基本とした漢方です。→茯苓四逆湯(人参湯+真武湯)

イメージしやすいのは、入院など長期になさって『体が弱っている』という状態でしょうか?
または、仕事などで働き詰めでぐったりしすぎているときもこの状態と言えるかもです。

 

おわりに

いかがでしたでしょうか?

今日は漢方独特の世界にいざなわれ、
ほんの少し漢方の世界を垣間見れたのではないかなと思います。

私は
西洋医学を学んで医師となりましたが
その隙間の細やかなところを漢方が埋めてくれることがある
と感じております。

私は、漢方の専門医ではありません。
初学者にすぎません。

誤解を恐れずに言いますと、西洋医学のやり方でうまく行っていれば
それはそれでも全然いい!!とも思っています。

ただ、西洋学医学では、ほかにあまり手がないとき
患者さんが希望されたとき
などに一つの『手』として『漢方をお試ししてみますか?』といえることは
プライマリ・ケアの大事な部分と考えています。

これからも私の『手』のひとつとして
精進してきたいと思っています。

 

あん奈

参考図書

私が大変勉強になった本はたくさんありますが
・あつまれ 飯塚漢方 カンファレンス 吉永 亮先生 南山堂→こちら
・腹証図解 漢方常用処方解説 (通称 赤本)高山 宏世先生 →こちら
・絵で見る和漢診療学 寺澤捷年先生→こちら
・はじめての漢方診療ノート 三潴忠道先生→こちら

をおすすめします。

特に、『あつまれ 飯塚漢方カンファレンス』は、総合診療と漢方の両方の視点から、私とほぼ同世代の今まさに精力的にプライマリケア学会を牽引されている、吉永 亮先生の本で本当に勉強になります。今回のブログもほぼほぼそちらを勉強して、私なりにまとめ直したものです。本当にお世話になっております

【漢方ブログ】まとめ

●リアルな漢方問診の流れ

・漢方のお話 リアルな漢方問診の流れ→こちら

漢方のお話 リアルな漢方診療の流れ

●陰陽虚実とは?

・今日は、陰陽虚実(いんようきょじつ)と言う考え方を中心にお話します。→こちら

漢方のお話 今日は、陰陽虚実(いんようきょじつ)と言う考え方を中心にお話します。

 

● 気血水とは?

 

【気血水について】

・漢方薬について 〜「気」とは何ですか?〜 気虚??→こちら

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・漢方薬について〜「気」とは何ですか?〜 気鬱??→こちら

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